若手のための“自己キャリア”

#24 会計リテラシー

全てのビジネスパーソンが身に付けたい会計スキル

会計という言葉には「専門的な知識を要する難しいもの」というイメージを持つ方が多いと思いますが、実際はとてもシンプルです。会計とは、事業をおこなう際に出入りする「お金の動きとその理由」を記した記録のこと。その記録に目を通せば事業活動の動きを把握することができます。このようなことから税理士の多くは、1年間の事業活動を総括した決算書のことを「会社の成績表」と呼びます。
逆説的に言えば、「決算書が読めない」というのは企業活動の良し悪しを評価できないことを意味します。したがって、会計リテラシーは実務をおこなう経理部門や一部の経営層だけではなく、全てのビジネスパーソンが身に付けるべき能力といえるでしょう。

大手・中小企業だけでなく、成長するスタートアップ企業の経営者の多くは「会計リテラシーが高い」と言われます。これには会社の経営状況(収益性や生産性、借入金、内部留保等)のみならず、投資や資産形成のほか、金融商品の知識や金融危機といった時事問題の把握などまで含まれます。こうしたことを総合的に見極めて判断することで、さらなる発展に向けた"自社の経営課題"を発見することができるようになります。
さらに、会計リテラシーを身に付ければ"取引先の評価"ができるようになります。決算書を見れば"取引して大丈夫な相手か否か"は一目瞭然(株式会社は上場・非上場を問わず、毎年「決算公告」が義務。電子公告・官報・日刊新聞等で閲覧可能)。罰則がないため、実際には公開していない企業もありますが、昨今は取引に先立って決算書の提示を求める(求められる)ケースも珍しくありません。

こうしたことから、若手の営業マンであっても、会計の基礎知識があればお金の流れを構造的に理解して効率的な営業活動ができるようにもなります。経営課題の発見のみならず、個人の営業成績を上げるためにも、会計リテラシーは有用なスキルといえるでしょう。
とはいえ、簿記の専門スキルまでは必要ありません。もちろん、事業活動におけるお金の流れのルールとして「仕訳」の概念などは知っておきたい知識ですが、日常的に会計処理をおこなう経理部門でない限り「決算書を読み解くスキル」があれば十分です。その中でも必要なのは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などの「財務三表」を読み解く知識(財務三表の基礎知識はYouTube等でも学ぶことができます)。財務三表を読み取って、企業の収益性や効率性、安全性、損益分岐点などを分析する会計リテラシーさえ身に付ければ、将来的なキャリア設計をおこなう上でも厚みが増します。

POINT

ビジネスで「数字」をインジケーター(意思決定の尺度)にする場合は客観的な数字であることが大前提になります。客観的な数字とは会計情報に基づく数字に他なりません。とはいえ、日頃会計とは無縁の営業職や技術職の場合、自ら進んで「会計知識を身に付けよう」と考える人はまずいないでしょう。なぜならそこにメリットが感じられないからです。「そんなヒマがあるなら1つでも多くアポイントを取る努力をした方がいい」と考えるのが普通です。
ところが、自分がマネジメントを行う立場になると状況は一変します。管理職やチームリーダーにとって会計知識は「知っていて当たり前」というレベルのスキルで、飛び交う会計用語を知らなければ会議の内容を理解することすらできません。逆に、最低限の会計リテラシーを身に付けていれば経営層とも近い目線で話すことができます。若手にとって経営者の話は学びの宝庫です。それらを漏らさず吸収してキャリアに活かせば、成長のスピードが加速することは間違いありません。

ビジネスライター 吉村高廣の視点

一般論として、組織に属するビジネスパーソンは、若手ほど自分の立ち位置を見失いがちです。そこで役立つのが会計リテラシーだと私は考えています。会社経営者はよく「若い人にも当事者意識を持って仕事に臨んで欲しい」と言いますが、そのためには「会計視点でビジネスを俯瞰できる」機会を与える(コスト管理が必要な責任ある仕事を任せてみる)ことが必要です。それによって、自分が会社に対してどの程度貢献できているかを把握できるようになります。つまり会計リテラシーとは、「お金の動きや事業の仕組みを知るツール」であり、社員の「当事者意識を喚起させる手段」にもなるのです。

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■記事公開日:2024/11/26
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=Adobe Stock

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