地震などの自然災害やテロ事件といった緊急事態の発生は事業継続に大きな影響を与え、最悪の場合、事業の継続が不可能な状態に追い込まれる可能性もあります。
そこで、緊急事態発生後も事業を継続させるとともに、限りなく短時間で業務機能を復旧させるために、あらかじめ代替策を設けて準備しておこうというのがBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)です。BCPへの取り組みは以前から言われてきたことですが、2011年に発生した東日本大震災で多くの企業が事業の停止や縮小を余儀なくされたことで、その重要性が改めて認識されるようになりました。
震災直後、最も大きく影響したのが物流インフラの寸断でした。とくにメーカーなどでは、工場被災をまぬがれても製品をつくる資材が集まらない、あるいは仮に製造できたとしてもそれを運ぶ手段がない、といった事態が起こりました。こうしたことからトラック輸送を諦め、船舶などで物資や製品を運ぶモーダルシフトを試みた企業も少なくありません。
しかしながらここで新たに顕在化した問題は、輸送量のキャパシティです。いかに1回の運航で大量の物資を運べる船舶でも、利用者が集中すれば全てに対応できるわけではありません。となれば、それまで付き合いのある「お得意様の荷物」が優先となる。結果、製品を倉庫から動かせない企業があふれたのです。
こうした経験をもとに、震災後、緊急時には別の場所で事業を再開できるよう生産拠点や営業拠点を日本各地に置きリスク分散を行った企業も少なくありません。事実これは、BCPの観点からも最も有効な施策の1つであると考えらえています。
しかし、こうした施策を行うためには相応の投資が必要になります。しかもそれは、設備や雇用にかかる固定費など決して小さなものではなく、中小企業の中には「不測の事態に先駆けた大きな事業投資は行えない」という会社も少なくありません。だからこそ、会社の規模や業種・業態に相応しい自社ならではのBCP対策を見つけることが、不確実な今の時代においては重要な経営課題の1つとなっているのです。
震災後、多くのメーカーがトラック輸送から船舶輸送にモーダルシフトを試みた時、すべての企業がスムーズにシフトできたわけではありませんでした。実はここに1つの教訓があります。不測の事態に備える自社努力もさることながら、緊急時は常日ごろからどのようなサポーターが存在するかで事業の継続や復旧のスピードが左右されます。つまり、現在のビジネスを通して、いかに多くの企業と良好なパートナーシップを築けているかが緊急時を乗り切る糧となるのです。実は、こうした秘策とも思われる対策を、自己キャリアとして考えておくことは、結果として、ビジネス成功に繋がる可能性が高まることになるのではないでしょうか。
顧客から突然の電話で、明日までに提案書を用意しなくてはならない。しかし別案件との兼ね合いで、とても一人では間に合いそうにない。こうした時、皆さんの周りには快く手伝ってくれる人がどれだけいるでしょう。日ごろからの社内における人間関係の良し悪しの結果はこうした時に顕在化されます。つまり、対企業間のみならず、個人が緊急時を乗り越えるためにも信頼関係を軸としたBCP対策が必要なのです。