
資格は身を助ける。この言葉が頻繁に使われるようになったのは1980年代のバブル崩壊以降のこと。原因は不安定な社会情勢です。それ以前の資格は、主に一部の専門職に就く人のためのもので、資格の数も限られていました。ところが今は、日本国内で取得できる資格の数も5000以上といわれ、その数は年々増えています。
こうした雨後のタケノコ状態の資格市場においては"本当に役立つ資格"を選ぶのは至難のワザ。確かなナビゲーターが必要です。そこで、自らが600以上もの資格を持ち、All About「資格」ガイドとしても活躍している資格王・鈴木秀明さんがお勧めする「これからのビジネスパーソンに必要な資格」をシリーズで紹介します。

心の不調や病気に悩む人が増えています。2014年の法改正で、中小企業でもストレスチェックが義務化されましたが、従業員50人未満の会社については"努力義務"とされており、働く人々の心の問題は、まだまだ闇の中というのが実情です。
職場で心の不調を訴えるのは若手にも増えてきており、その要因の1つは"成果主義"にあると言われます。昨今は、若手であっても十分な訓練が成されぬまま、能力以上の成果を求められることは少なくありません。そして、それがストレスになって心に不調をきたしてゆく。それに周囲が気づかず仕事を続けさせていると、やがて深刻な心の病が顕在化してくるそうです。メンタルヘルス・マネジメント検定は、心の不調にいち早く気づき、その原因を把握して対処方法を考えるなどして、組織に心の問題でリタイアする従業員をつくらないための、これから需要が高まる資格です。
この検定は、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を受けて、2006年から大阪商工会議所によって実施されてきました。以後、メンタルヘルス対策に取り組むために検定を導入する企業が毎年右肩上がりで増え続け、2018年は全国で約5万人が受験しています。
さらには、日経キャリアマガジンと日経新聞がビジネスパーソンに対して実施した「お役立ち資格ランキング」のアンケートでは、なんとTOEFLテストを抜いて3位と、実用性の高さを裏付けています。
メンタルヘルス・マネジメント検定 3つのコース
Ⅰ種(マスターコース)人事労務管理スタッフ・経営幹部対象
目的:社内のメンタルヘルス対策の推進
自社の人事戦略・方針を踏まえたうえで、メンタルヘルスケア計画、産業保健スタッフや他の専門機関との連携、従業員への教育・研修等に関する企画・立案・実施を行うことができます。
Ⅱ種(ラインケアコース)管理職対象
目的:部門内、上司としての部下のメンタルヘルス対策の推進
部下が心の不調に陥らないよう普段から配慮するとともに、部下に不調が見受けられた場合には安全配慮義務に則った対応を行うことができます。
Ⅲ種(セルフケアコース)一般社員対象
目的:組織における従業員自らのメンタルヘルス対策の推進
自らストレスの状況・状態を把握することにより、心の不調に早期に気づき、自らケアを行い、必要であれば助けを求めることができます。
メンタルヘルス・マネジメント検定の特徴は、周囲の人の心の不調を察知するだけではなく、自分のメンタルをセルフチェックするⅡ種(セルフケアコース)が設けられている点でしょう。「自分のストレスなんて、わざわざ学ばなくても把握できる」と考える方が多いでしょうが、実はここがメンタルヘルスの落とし穴です。心の病が深刻化する人は、多くの場合生真面目で几帳面、さらには、相手の期待に応えようと頑張りすぎて、メンタルの疲れを自覚するのが遅れます。当然周りは、頑張る人の心の不調に気づくことはありません。結果、気づいたときは心の病が進行している、ということが少なくないそうです。
最近ちょっと怒りっぽくなったとか、疲れがとれず気力がわかない、夜眠れない。こうした症状が現れたら、それはストレスが溜まって心が不調になっているサインかも知れません。そんなサインに敏感になって、いち早く善処してゆくのもメンタルヘルス・マネジメント検定に取り組む意義と言えるでしょう。
資格取得の詳細はこちらより→メンタルヘルス・マネジメント検定
https://www.mental-health.ne.jp/


メンタルヘルス・マネジメント検定を実務レベルで生かそうと思うのなら、Ⅱ種のラインケアコースの合格を目指して学習に取り組むことが有意義だと思います。近年は職場における心の病は社会問題にもなっているので、企業の管理職に就いている方は部下の心の管理も重要な仕事になります、事実、この検定の取得を昇進要件の1つにしている企業もあるそうです。
今後ますます必要とされるスキルには違いありませんが、注意したいのは、転職を希望されるような方にとって、メンタルヘルス・マネジメント検定の取得は有利に転職活動を進めてゆくための「攻め」の武器にはなりにくいという点です。従業員のメンタルヘルス対策は、個々の会社の風土や仕事の進め方によって大きく異なるため、同じフレームで考えることはできないケースもあります。あくまでも、今いる会社をより良いものにしたい、あるいは、わが身を守るセルフケアのツールとして役立たせたい。そのような方にお勧めしたい検定です。
■記事公開日:2019/06/10 ■記事取材日: 2019/03/18 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼監修=鈴木秀明