株式会社エイチ・アイ・エス(以後HIS)は1980年に旅行業界のベンチャーとして設立。当時の旅行業界は個人旅行の普及が急速に拡大しており、そうした中でHISは、「格安航空券のパイオニア」として注目を集め、多くの人々に海外旅行の機会を提供しました。現在では世界中に拠点を持つグローバル企業へと成長を遂げ、海外旅行のみならず、国内旅行や、訪日旅行(インバウンド)のほか、ホテル、飲食など多岐にわたる事業を展開しています。
2024年7月16日、同社は法人営業と訪日事業部の機能向上を視野に入れ、都内複数に分かれていた各事業部門を新宿アイランドタワーに集約移転。新オフィスは新しい働き方に対応しつつも、独自のカラーを打ち出し快適な「働く環境づくり」に成功しています。今回はその移転プロジェクトの中心的役割を担ったHIS財産管理グループリーダーの岡本敦氏に話をお聞きしました。
1.エントランスエリアエントランスエリア「HISのこだわりを集約」
受付があるエントランスは、ひときわ鮮やかなカーペットが目を惹きます。このカーペットはAIを活用したデザインで、HISのパーパスである「"心躍る"を解き放つ」や「海外旅行」といったワードやイメージカラーをAIに読み込ませて創りあげたといいます。AIを活用することで、短時間で大量かつ多様なアイデアの創出が可能になり、出てきたデザインカンプ(完成サンプル)は数百通りにも及んだのだとか。その中からある程度の数に絞り込み、社員の方々や役員の意見を聞き、最終的に決まった1枚がこちらのカーペットです。
タブレットが設置された天然木の受付カウンターにはモンキーポットの木が使われています。モンキーポットは、某有名電機メーカーのテレビCMでお馴染みの木で、ハワイや東南アジア、中南米に生息し、持続可能な方法で栽培されるため"環境に優しい一枚板の人気木材"とされています。また、不規則な木目や色の濃淡によるグラデーションが特長の素材です。岡本氏いわく、「小さなこだわりだけれど、お客さまが来社した時は話題のネタにもなる」のだとか。海外旅行のHISならではの"遊びごころ"が反映された、こだわりのエントランスです。
2.会議室「お客さまに好印象を与え商談を後押し」
セキュリティレベルが高い執務エリアに入る前のエントランスエリアには、お客さまを迎えた際に使用する会議室(主に役員が使う接客室と、社員が商談や打ち合わせなどをおこなう接客室)が設けられています。役員接客室は、壁紙やカーペット、テーブルやチェアは落ち着いたブラウントーンで統一され、大事な意思決定をおこなう場に相応しい雰囲気を醸し出していました。
一方、社員が日常的に利用する会議室は白と黒を基調にしたシンプルなデザインにし、明るく開放的で広く見える視覚効果が活かされていました。シンプルですが、それゆえに清潔感やプロフェッショナリズムが感じられ、クライアントやビジネスパートナーに良い印象を与えます。またホワイトウォールで囲われた会議室は、視覚的なノイズが少なく集中力が増す効果も兼ね備えています。
3.執務エリア「座席の自由化とパーソナルスペースの充実」
今回の移転にあたっては「ワンフロアに最低でも500席を確保できること」がオフィス選びの大前提であったと岡本氏はおっしゃいます。したがって、遊びのある空間を設けるよりも「席数を確保して、より効率的に働けること」を第一にオフィスのレイアウトも決められたそうです。電話も固定電話は廃止して、個人のノートパソコンに着信するクラウド電話を導入したことで仕事の効率化は劇的に向上。在宅勤務をしていても職場にいるのと同じ感覚で電話を取ることができ、オフィスワークをフレキシブルにサポートしています。
今回の移転では、部署ごとに振り分けられたスペース内でのフリーアドレス化が大きな変化でもありました。座席を自由化して開放的な空間にすることで、日々違う交流が生まれ、新たな気づきやひらめきを誘発しイノベーションにつながることが期待できます。
しかし、座席を自由化したことで周囲を複数の人が行き来するようになれば仕事に集中するのが難しくなります。またオンライン会議が増えたことによりパーソナルスペースの確保は必須でした。フリーアドレスの導入でコミュニケーションを重視したオフィスづくりをしつつも、状況に応じて"独りになれる空間"が持てるようソロワークスペースや、オンライン会議用の集中ブースもしっかり設けられていました。
4.ミーティングスペース「目的に合わせて3つのスペースを使い分け」
風通しが良いオフィスづくりでコミュニケーションを活性化させるために、近年は、機能的で使い勝手が良く、おしゃれなミーティングスペースを設ける企業が増えています。HISでは執務エリアの中心に、テーブルタイプ・ソファタイプ・スタンディングタイプと、趣の異なる3つのタイプで構成されたオープンなミーティングスペースを設けて、目的に合わせた使い分けをしています。
テーブルタイプは全員が顔を合わせやすく視覚的なコミュニケーションが促進されます。情報共有もしやすくなるため参加者が集中でき、詳細を詰めるミーティングに効率的です。ソファに座っておこなうミーティングはリラックスした雰囲気をつくり出します。気持ちが和み自由に意見を述べやすくなり、インフォーマルなコミュニケーションが活発化してオープンな対話を可能にします。スタンディングデスクでのミーティングは短時間で効率的に進行する傾向があるため、会話の時間を短縮して迅速な意思決定が可能になります。またミーティング利用だけではなく、気分転換を図るワーキングスペースとしても活用することも可能です。
5.休憩スペース「テラコッタ風の落ち着きのある空間」
社員の働きやすさや生産性を高めるためにはオフィス環境の質が重要です。特に、休憩スペースは社員がリフレッシュし、ストレスを解消するための重要な場所。社員のモチベーションにも影響を与えるため、デザインや快適な空間づくりに力を入れている企業が増えています。HISでは各々が自由な時間に昼休憩をとるため、500名が一斉に押し寄せることはありませんが、皆がしっかり休憩できるよう十分なスペースを確保していました。また、休憩スペースはテラコッタ風のデザインで落ち着きのある空間を演出。執務エリアと隣り合わせであるものの、スペースの雰囲気がガラリと変わることで気持ちが安らぐスイッチが入り、リフレッシュした休憩後の業務効率向上が期待できそうな空間でした。
コロナ禍を越えて新しいオフィスへ。業績は右肩上がりに。
株式会社エイチ・アイ・エス 経理財務本部 財務部 財産管理グループリーダー 岡本敦さま
分散していた各事業部を集約移転させて効率的な営業活動をおこなうことが移転の目的でした。とはいえ、コロナ禍で旅行業界は大打撃を受けていたため無尽蔵でオフィスに投資はできません。コストは抑えつつワンフロアに最低500人が勤務できるオフィスを新宿で探していました。
新宿でオフィスを探した理由は2つあり、1つはインバウンド需要が大きなエリアであること、さらにはHIS創業の地が新宿であり、社員やお客さまの中にも「HIS=新宿」というイメージが根強くあったことです。移転計画が立ち上がったのはコロナの脅威が冷めやらぬ時期でしたので、一つひとつの意思決定は慎重になりました。旅行業界がいつ完全復活できるか分からない非常に厳しい状況の中での移転でした。
こちらの新オフィスでは、本社の働き方(範囲限定のフリーアドレス導入・オープンなミーティングスペースを設ける等)をある程度踏襲しています。その上で、まずこだわったのは会社としての"顔"であるエントランスで、本社を訪れたことがあるお客さまがこちらに来訪された時に「差を感じない」ようなクオリティで仕上げることでした。当然ながら働く社員へのホスピタリティに関しても同様で、オフィス家具 (チェアやデスク等)のクオリティも変えずに社員のモチベーション維持を図っています。
もちろん、「出社することが最良の働き方」というわけではありませんが、法人営業のようにエンドユーザーを抱えている部署には「出社した方が話が早いし齟齬がない」と考える人も多い。一方で、デザインをしている部署などは在宅でコツコツ仕事をするほうが生産性は上がるケースもある。法人営業はチームで動くためパソコンのモニター越しに仕事を完結させることはできません。
また、「新しいオフィス環境に馴染む」という点では、移転後しばらくはミーティングスペースを利用する社員がほとんどいませんでした。ミーティングは「会議室のような囲われた空間でおこなうもの」という固定概念があり、利用の仕方が分からなかったんです。ところが今は当たり前のように使っている。つまり、働き方が環境に馴染んできたのです。