良い仕事をする上で大事なのは間違いなくオフィスの環境です。成長を遂げている会社は、確固たる戦略性や会社の思想に基づいて"働き方のカタチ"をオフィスで具現化しているものです。ここではそれを実現させた企業にフォーカスして、新たな時代に相応しいオフィスの数々をシリーズでご紹介してゆきます。
将来を見据えたinnovation
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社のオフィス
今回編集部がお邪魔したのは、リテール、ホールセール(法人営業、投資銀行)、マーケットの各部門をバランスよく連係させ、日本屈指の総合証券グループの地位を確立している東海東京フィナンシャル・グループの持ち株会社、東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社のオフィスです。茅場町にあった子会社、東海東京証券のトレーディングルームと法人営業部門を吸収して日本橋に本社機能を移転させ、金融系では珍しいABW(※)やフリーアドレスを採用した自由度の高いオフィスを実現。働き方改革を加速させ、経営基盤の強化に向けた『生産性革命』に取り組んでいます。
※ABW(Activity Based Working):集中したい作業は静かな部屋やスペースでしたり、打ち合わせをサロンのソファでおこなうなど、フレキシブルに場所を選んで働くことで生産性を最大化させる働き方戦略。
30Floor TT MEDIA LOUNGE(ABWゾーン)
使い勝手の異なる3つのエリアにゾーニング
かねてよりダイバーシティ経営への取り組みで競争優位を築いてきた東海東京フィナンシャル・ホールディングス。オフィス移転に伴い、その柔軟な発想を踏襲した象徴的なエリアが、30階のTT MEDIA LOUNGE(ABWゾーン)です。フロアのゾーニングは、①カフェ・ミーティング・情報共有ゾーン、②ラウンジ・コミュニケーションゾーン、③タッチダウンオフィス・集中ゾーンという使い勝手の異なる3ゾーンで構成されます。
■カフェ・ミーティング・情報共有ゾーン
株式情報を映し出すデジタルサイネージがいかにも金融系企業らしいこちらのゾーンでは、カフェで朝食をとり、その流れで朝会をおこなうチームが少なくないそうです。エリアのコンセプトは"社員のためのリフレッシュスペース"という位置づけですが、使い方は人それぞれ多種多様。ランチタイムに憩ったり、社内ミーティングなどで使用したり、テーブルを移動させてイベントやセミナーにも使うことも可能だそうです。さらにこのゾーンには、モニターでPC情報を共有できるファミレス席が設けられています。
■ラウンジ・コミュニケーションゾーン
オープンな雰囲気に加え眺望も楽しみつつ打ち合わせができます。ABWゾーン自体、基本は社員の使用が前提ですが、来客者との打ち合わせをおこなうことも。今回、我々の取材もこのスペースでおこなわれました。カフェ・ミーティング・情報共有ゾーンとの境界は、来客があった場合を意識して木製格子で主張しすぎずに仕切られています。またこちらのゾーン側面には"完全独立型"で仕事ができる1人席が。周囲の視線を遮断して、作業に集中したい時には最適のスペースです。
■タッチダウンオフィス・集中ゾーン
ファミレス席の奥に位置するタッチダウンゾーン。このエリアは、国内外のグループ関連会社から訪れた出張者が、集中して仕事ができるように設けられたエリアです。無線LANと各席に電源が完備。窓際にはくつろぎながら仕事ができるベンチシートも。さらに、集中個室も設けられており、他拠点とのWeb会議などにも使用することができます。
31floor 執務エリア
フエルトのパーテーションとハイテーブル
それぞれの部署間に仕切りがなく、フロア全体がオープンなオフィス設計です。エリア内はフリーアドレスが採用されており、その日の気分や仕事内容によって、各自が"今日のデスク"を選択します。限りなく自由度の高い執務エリアですが、法人関係情報を頻繁に扱う部署からは「人の目を遮断したい」といった強い要望もあり、柔らかな印象で人目を遮る"フエルト地のパーテーション"を設けたそうです。これは可動式になっていて、必要に応じて開閉できる優れモノです。
会議時間の短縮は何処も課題となりますが、それを実現させる1つの方法が"立ち会議"です。リフレッシュエリアの中央に佇む存在感のあるハイテーブル。軽いミーティングならわざわざ場所を確保しなくともこのハイテーブルで十分。また、このハイテーブルはゴミ箱を併設しており、側面からゴミを入れられる仕様にもなっています。
29floor トレーディングフロア
集中力を保つスタンディング・トレード
茅場町から移転してきた東海東京証券のマーケット部門のフロアです。刻々と変動する相場を、マルチディスプレイで長時間監視するトレーダーの仕事。集中力を保てるよう、1日に必ず何度かは立って仕事をすることがあるそうです。デスクは電動昇降で6面ディスプレイを好きな高さに調節できます。
ABWやフリーアドレスの採用は、テレワーク時代への予行演習
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社
総合企画部マネージャー 海老澤優子さん
働き方改革を進めていく上で、オフィスが手狭になったことに加えて、BCP対策、優れた人材の確保、富裕層ビジネスにおける会員制サロン構築なども視野に入れ、2019年1月にオフィス移転を実施しました。
大きく変わったのは、ABWゾーンの構築とフリーアドレスの採用によって、パソコンがデスクトップからノートパソコンになり、無線LAN でどこでもつながるようになったことです。
各自がノートパソコンを持って会議に参加するようになったので、会議の前に人数分の資料をプリントアウトすることが少なくなり、明らかにオフィスから紙が減りました。また過去の事例を知りたいときなども「あとで調べてお知らせします」ではなく、ノートパソコンでその場で検索して、即座に情報共有できるなど時間のロスも減っています。
ただ、外線電話の対応に最初のうちは戸惑いました。フリーアドレスになるということは固定電話がなくなるということです。一人ひとりにFMC端末の内線電話が与えられ、各部署内で外線対応者から転送されるわけですが、使い勝手に慣れるまでには少し時間がかかりました。とくに管理者は、部下の姿が見当たらないと「どこにいるんだ?」とオフィス内を見渡し、インスタントメッセージ(Skype)で確かめるようなこともあったようです。それでも、想定していたよりトラブルは少なくて比較的スムーズに移行できたと思っています。コミュニケーションは格段に良くなりましたし、仕事にスピード感が生まれたようにも感じています。
確かに金融系企業でのABWやフリーアドレスの採用は、まだ珍しいかも知れません。しかしこれは、いろんな意味でこれからのことを考えた訓練のような部分もあるんです。今後は条件さえ整えばテレワークなどが一部の業務で必要になることもあるでしょう。そういう意味では、このオフィスの中でどこにいても自由に仕事ができるようになることは、それの予行演習をしているような側面もあるわけです。
■記事公開日:2020/02/21 ■記事取材日: 2020/02/06 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=田尻光久