良い仕事をする上で大事なのは間違いなくオフィスの環境です。成長を遂げている会社は、確固たる戦略性や会社の思想に基づいて"働き方のカタチ"をオフィスで具現化しているものです。ここではそれを実現させた企業にフォーカスして、新たな時代に相応しいオフィスの数々をシリーズでご紹介してゆきます。
まさに"Star Wars"の世界観! 株式会社Legaseedのオフィスに潜入
新企画『次世代オフィス探訪』第一回は、企業人事分野のコンサルティングで飛躍的な成長を続けるベンチャー企業、株式会社Legaseedのオフィスをご紹介します。100坪超のフロアを2階・3階と占有して、それぞれを異なる世界観で演出。度肝を抜くその空間デザインにはただただ圧巻です。しかしそれは単なる賑やかしではなく、若いベンチャー企業が勝ち抜いてゆく上で必要な"必然のカタチ"なのでした。
Second floor concept 『都会の秘密基地』
執務フロアの2階でエレベータを降りると、いきなり目の前に現れたのはなんと藁ぶきのトンネル。ここが秘密基地の入り口です。トンネルを抜けてオフィスフロアに入ると、天井丈のバオバブの木が来訪者を出迎えます。単なる遊び心と思いきや、実はこれこそ会社のビジョンを体現した大事なモチーフなのだとか。バオバブの木は"永遠の木"と言われ「長く愛されて続く」という意味があるそうです。「永遠に愛され、必要とされる会社になる」というLegaseedのビジョンが、このオブジェに込められているのです。
Legaseedではフロア全体がフリーアドレスを採用しており、メインの執務エリアに限らずどこでも仕事をすることが可能です。気分を変えて集中したい時はBarスペースで仕事をしたり、リラックスした気分で仕事をしたい時や、軽いミーティングなどはCafeスペースを利用してみたり。手がける仕事の内容や気分の変化に応じて自在に働く場所を変えることができるのがLegaseedのオフィスの大きなポイントです。補足ですが、業務時間外であれば、Barスペースのお酒は飲み放題!なんとも羨ましい限りです。
2階フロアの中心には、円柱型の巨大ライブラリーが鎮座します。蔵書はおよそ800冊。そのジャンルもビジネスやマーケティングをはじめとして多岐にわたります。実はこのライブラリー、単なる本棚ではなくシークレットルーム(ミーティングルーム)を内包しています。入口の藁ぶきのトンネルといい、まさに『都会の秘密基地』がピッタリの、遊び心と機能性に満ちたオフィスフロアでした。
Third floor concept 『宇宙船』
SPACE CAREERと銘打った3階フロアの主目的は、セミナーを開催したり、学生との面談や企業とのマッチングを行うスペース。フロアコンセプトは『宇宙船』です。すぐに思い浮かんだのはStar Warsに登場する宇宙船ミレニアム・ファルコンの船内で、とても一企業のオフィスフロアとは思えません。実はここにも深い意味があるそうです。学生のキャリアには無限の可能性があり、それを象徴しているのが「宇宙」です。そして、キャリアを具現化させる「SPACE」としてこうした空間デザインが生まれたそうです。
エントランスからセミナールームへ。ここもエントランス同様、近未来感あふれる驚きの空間が広がっていました。Legaseedの会社説明会時には、このスペースに100名を超す学生が集まると言います。セミナーやイベントがない時はここで仕事をする社員も少なくないのだとか。2階のBarスペースやCafeスペースとは全く趣が異なる環境で仕事に集中することができそうです。
いずれにしても、人を引き寄せる魅力的な工夫がそこかしこに施されたLegaseedのオフィス。新卒の応募に1万人を超す学生が殺到するというのも、実際にオフィスを拝見して大いに納得できました。
このオフィスは、営業効率を考えた設備投資の結晶です。
株式会社Legaseed 代表取締役 近藤悦康さん
オフィスづくりにこだわったのには幾つかの理由があります。まずは、働いている時間の多くを過ごすオフィス環境を良くすることで社員に充足感を与えることです。たとえば、一人で集中した方が能率アップにつながる仕事もあれば、多くでコミュニケートしながらアイディアを出し合うような仕事もあります。いろんなシチュエーションがある中で、自在に場所が選べて、最大限にパフォーマンスが発揮できる空間設計を重視しました。二つ目は、会社の理念や方針、さらには現状などを誰もが常に意識できる可視化されたオフィスであること。そして三つ目が営業効率の向上で、実はここが一番大きなポイントです。
当社には営業マンがおらず、お客さまの口コミによって問い合わせが来るような仕組みを構築しています。普通、問い合わせが来ると「ではお伺いさせていただきます」となるのがビジネスのセオリーでしょう。ところが当社の場合は「それではご来社ください」と申し上げています。なぜお客さまにお越しいただくよう仕向ける必要があるのか。1つには時間と経費の削減があります。それは当然のこととして、もう1つ我々のような若い会社ならではの理由があります。
当社は平均年齢が26歳と若いため、お客さま先に伺って偉い人に囲まれるような"完全アウェイ"の状況になると、本来のスキルが発揮できないケースが想定されます。いわゆる、折衝の経験不足です。ところが、勝手知ったホーム(自社)ならば精神的にゆとりが生まれ、いつもの力を発揮することができます。当然ながら仕事の成約率も高くなります。これを実現させるためには、わざわざ足を運んでいただけるだけの高い付加価値がオフィスになければならない。誰もが驚くような仕掛けがある空間でなくてはなりません。それが、ここまでオフィスにこだわった最大の理由と言っていいでしょう。
四つ目の理由として採用効果も挙げられますが、そこにはあまり重きを置いてはいません。直接的に人材採用に結びつけるというよりも、学生間で「すごいオフィスの会社があってさ...」というネタの伝播、いわゆる口コミに期待しています。それはある種のブランディングと言ってもいいでしょう。
最後の理由は投資価値です。私は、ピカピカの新築ビルに高いお金を払って入るよりも、同じお金をかけるのなら少し古いビルでもそこに思いの丈を集約させた内装を施して、新しい命を吹き込んだオフィスの方が価値があると考えています。また、そこで決定的な違いとなるのが融資の可否です。家賃に対する融資はありませんが、内装は設備投資にあたるため融資対象になります。事実、このオフィスの内装はすべて融資で賄って、我々のビジネススタイルに相応しい思い通りの空間をつくりあげました。
結局のところオフィスづくりというのは、戦国時代の城づくりのようなものだと私は思っているんです。城というのは自分たちが優位に戦を進めるための"基地"です。そのためには、自分たちの戦のやり方を検証してみて、どのくらい石垣を高くすればいいかとか、堀の幅や深さはこのくらい必要だとか、機能性やフォルムを追求してゆくわけです。オフィスもそれと同じです。ですから本来、オフィスというのはその会社の戦略性やビジョンに則った顔つきをしているべきではないか。そんなふうに私は考えています。
■記事公開日:2019/05/20 ■記事取材日: 2019/04/22 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=田尻光久