良い仕事をする上で大事なのは間違いなくオフィスの環境です。成長を遂げている会社は、確固たる戦略性や会社の思想に基づいて"働き方のカタチ"をオフィスで具現化しているものです。ここではそれを実現させた企業にフォーカスして、新たな時代に相応しいオフィスの数々をシリーズでご紹介してゆきます。
会社の理念が見事にデザインされた 株式会社エムステージのオフィスを探訪
今回訪ねたのは、全国11都市で医療系人材サービス事業を展開する株式会社エムステージの東京本社オフィスです。事業の性質上、医師や企業人の"健康的な働き方"に深く関与するエムステージでは、「まず自分たちの職場をそのロールモデルに」というスタンスでオフィスづくりをおこなっています。派手な演出はありませんが、社員の主体性を喚起すべく、ワークスタイルを自在にシフトできる"ゆとり重視"のヒューマンライクなオフィスづくりを実践。堅実に業績を伸ばすヒントが垣間見えるオフィスでした。
Entrance 緊張感と高揚感を具現化
緊張感と高揚感をコンセプトにデザインされたモダンスタイルのエントランス。病と向き合うシビアな世界に身を置く医師や医療従事者を迎えるに相応しい、硬質で重厚感のある空間が印象的です。そして、中央に設けられた正方形の抜き窓は、常に一歩先を見通して『持続可能な医療の未来をつくる』というエムステージの経営ビジョンを象徴的にモデリングしています。オフィス探訪ツアーはここからスタートです。
Open Space 3つのエリアを緩やかにゾーニング
150坪近くはあろうかと思われる広々としたオフィス。中央のワークスペースをメインの執務エリアとして、東西の一角には、「Cafeエリア」と「Refreshエリア」という趣の異なる2つの"働く場"が共存しています。取材陣をアテンドしてくださった広報担当の関矢瑞季さんは、「3つのエリアを完全に間仕切るのではなく、オフィス家具の違いや、床の質感・天井の仕上げ、キャビネットの配色などですみ分ける"緩やかなゾーニング"が、このオフィスの大きな特長」とおっしゃいます。フリーアドレスを採用しているため、仕事内容やその日の気分次第で、これら3エリアのどこでも仕事をすることができます。
Closed Space 仕事に集中できる、内緒話もできる
集中して仕事をしたい時に使用する「畳スペース」。遮音性能の高い構造になっているため、外の話し声や電話の音も気になりません。掘りこたつ式で靴を脱いで利用するため解放感も抜群。ここで仮眠をとる社員も少なくないのだとか。ただし、いびきをかく人はここでの仮眠は自粛した方がよさそうです。
エムステージでは、1か月に1度、上司と部下の面談が定例になっています。その時期はミーティングルームが混み合うことから対面型のブースを設けています。防音性能に優れているため、あまり人に聞かれたくない内容の話をしたり、Skypeを利用する場合などもここを利用します。一般的な防音ブースは窓がなく閉塞感がありますが、この対面ブースは全面ガラス張りとなっているため、全く狭さを感じません。
Relax Space リフレッシュして再スタート!
天井や床を異なる質感で仕上げることで、デスクが並ぶ執務エリアと緩やかな差別化を図っています。この一帯は、肩肘張らないアイディア出しやお茶を飲みながらリラックスタイムを過ごすスペース。ハイカウンターテーブルを設けて、立ち仕事ができる仕様にもなっていますが、頭の中をリフレッシュして煮詰まっていたものを解放し、仕事を再スタートさせることが、ここの主な用途目的となっています。それを象徴しているのがバーカウンター上の「THE PIT」のサイン。レーシングカーが、給油やタイヤ交換を終えてサーキットに戻るレースピットをイメージしてネーミングしたそうです。
オフィスは働く場。過度な遊び心は必要ありません。
株式会社エムステージ 広報 兼 メディア事業部・編集長 関矢瑞季さん
弊社は社員にハイパフォーマンスを求めます。ならば、パフォーマンスを発揮できる環境を整備するのは会社の責務である、そんな思いでオフィスに投資をしています。その方向性としては、生産性が向上する職場環境であることはもちろん、ストレスのないゆとりのある空間であることが極めて重要なファクターになります。
弊社の仕事は"健康"が軸にあるので、まず私たち自身が健康である、或いは、健康的な働き方をしていなくてはなりません。またそれを実現させるためには、オフィスの在り方を真面目に考えることが大事です。オフィスはあくまで働く場です。遊び心にあふれたオフィスは、瞬間的なモチベーションの高まりはあるでしょうが、その高揚感は持続しないと思います。働く場なのに緩み過ぎては本末転倒です。
ですから、限りなく便利なオフィスでありたいし、環境のいい空間づくりをしたいけれども、華美であり過ぎる職場はオフィスとして相応しくないと思います。生産性高く働ける、集中できる、コミュニケーションがとりやすくなる、など、仕事に関わる設備投資は積極的におこないますが、過度な遊び心は必要ない。これは東京本社のみならず札幌から沖縄まで、全ての支社に共通したオフィスづくりのコンセプトです。
前のオフィスが手狭になったため、2013年12月にこちらのオフィスに移転しました。以来、広さを活かしてブラッシュアップを重ね、Refreshエリアや畳スペースを設けるなどして、オフィスとしての完成度を徐々に上げているので、かなり柔軟な働き方ができるようになったと思います。
弊社の代表はオフィスに自論を持っています。それは、「スペースが小さいと人も成長できない。ひいては、人の集まりである企業も成長できない」というもので、"ゆとりある空間づくり"をとても大事にしています。1つ1つのデスクも大きいですし、デスク間の通路幅もかなり広く確保しています。もっと多くのデスクを置くこともできますが、あえてそうしたことはしていません。それは、広い方が使いやすいという理由だけではなく、社員のメンタルな部分の成長や、"働く場"としての健全性を考えてのことです。私は前職、出版社に勤務しておりました。小さな事務机が密集して、少し椅子を引いただけで後ろの人にぶつかるようなオフィスで働いていましたので「私の成長のピークもこれから!」と密かに期待しているんです(笑)。
一日のうち多くの時間を過ごすのがオフィスです。したがって、オフィス環境は大いに健康を左右します。メンタルヘルスの概念からも、オフィス環境の充実はココロやカラダの健康と密接していて、ひいてはそれが仕事の生産性にも関連してくると考えられています。生産性の低下は、集中力の低下、コミュニケーション不足などが挙げられますが、"病気になって仕事を休んでしまうこと"が極めて大きな理由になります。弊社の事業の一翼は、まさしくここにアプローチするもので、実はオフィスの在り方とも大きく関係しているのです。
働き方改革が言われる昨今ですが、オフィスの在り方を変えてゆくのも働き方改革の大きな要素だと思います。働き方の見直しでいうと、リモートワークが話題ですが、私たちはリモートワークを推奨していません。週に1回程度リモートワークを制度的に設けるよりも、オフィス環境をいかに良いものにするかの方が大事だと思います。"良いもの"と言っても、ただデザイン的な良し悪しではなく、パフォーマンス高く働くための良し悪しで考えるべきです。そうした中で社員の健全性や、自然発生的なコミュニケーションが生まれてくるようなオフィス。こうしたオフィスがあってこそ、チームワークを高めることにもなりますし、新しいアイディアの創出にもつながるはずです。そしてそれが"オフィスの価値"だと思います。今後もこうした改革は積極的に進め、次のステージにステップアップしてゆきたいと思っています。
■記事公開日:2019/07/17 ■記事取材日: 2019/07/05 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=田尻光久