まずは、自分たちが面白がろう。つぎに、周囲からも面白い人と言われよう。そして、誰かの人生を面白くしよう。そんな思いを経営理念のボトムとして、1998年に学生時代の友人3人が集まって起業した面白法人カヤック。ゲームアプリの開発や広告の企画制作、地域活性化事業など、幅広く"面白ビジネス"を手がけるIT企業です。今回の『オフィス探訪』は、2018年秋に鎌倉市に竣工したカヤックの新社屋(研究開発棟・ぼくらの会議棟)、そして焚火会議室を、藤川綱司管理本部担当取締役と広報担当の梶陽子さんに、リモートでご案内いただきました。
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仲間とより良く働くために何ができるだろう。
コロナ禍のオフィスで芽生えた社員たちの当事者意識。
新社屋を建設するまでの背景
おかげさまで会社が成長して社員数も増え、それに見合った広さの新社屋を確保したいということは少し前から計画視野に入っていました。ただ、それを実現するためには地域住民の方々の理解が大きなファクターになります。自分たちの都合だけではなく、鎌倉の街や人とどう一体化できるかが大きな課題です。
カヤックは、2002年に鎌倉市に本社を構えて以来、市民の方々と強い繋がりを構築してきました。
鎌倉をより良くしてゆこうという、社員も参加する地域コミュニティ「カマコン
https://kamacon.com/」の旗振りや、地域の清掃活動なども積極的にやってきました。ですから、カヤックの名前は地元の方々にもかなり浸透しつつあります。だからこそ、住民の方々もオフィスビルの建築工事を温かく見守ってくださったのだと思います。一企業が"市民権"を得るというのは並大抵のことではありません。私たちも、胸を張って「カヤックは鎌倉の企業市民である」と言えるよう、鎌倉の地域に貢献できる取り組みを今後も続けていきたいと思っています。
カヤックにとってオフィスとは
カヤックのビジョンの中に、「何をするかより、誰とするか」というキーワードがあります。そもそも会社の成り立ち自体、大学の同級生だった経営トップの3人が、「面白い仲間と、面白い会社をつくろう」ということで始めた会社ですので、"誰か=仲間"に対する思いは非常に大きなものがあります。オフィスはその"仲間が集まる場所"であり、みんなが面白がりながら新しいアイディアが沸いてくるような場所でなくてはならないと考えています。
その一例として、カヤックのオフィスには壁がありません。今は、個室があった方が集中できて生産性が高くなるという考え方と、いつでも誰とでも話せるオープンな環境がいいという考え方があります。カヤックは後者にフォーカスしてオフィスづくりをしてきました。仲間の顔が見えていることによる安心感や、オフィスの空気感とでも言いましょうか。数字では測り切れない部分も大事にしています。
コロナ禍におけるカヤックの1年
2020年の緊急事態宣言時には、9割ほどの社員がオフィスを離れてリモートワークに変わりました。そこから"3密"を回避して安心して出社できるように『NO密オフィス』という取り組みをスタートしました。
それまで研究開発棟では1階約140名、3階には120名ほどの社員が働いていましたが、その半分に席を減らしました。さらに今は、原則週3までしか出勤ができないようにしています。またオンライン専用のブースを設けるなどコロナ仕様に整備もしました。その結果、5割程の出社率まで戻りましたが、まだ半分はリモートワークですのでコロナ前とは働き方が大きく変わったと言えるでしょう。
こうした中で社員の意識も変化しました。仲間とより良く働くために、オンライン上でブレストする仕組みを考えるチームが立ち上がったり、Zoom だけではなくいろんなオンラインツールを使って繋がろうとする人が出てきたり、逆に、対面で話すことの大切さに気付き、オフラインのミーティングをセットする人がいたり。各自が仲間を大切にしてチームワークで仕事ができるような取り組みをしてきた1年でした。
住宅用建材の採用で独自性の高い新社屋に
広さの確保が大前提でしたが今の鎌倉で広い土地を探すのは困難です。運よく、約687㎡と約277㎡の向かい合った土地が出て、研究開発棟と会議棟、2棟の社屋ビルを新築しました。設計事務所に「街に溶け込むような建物にして欲しい」という要望を出したところ、それを具現化するアイディアとして、特殊な建材や部材は用いず、一般的な住宅用建材(アルミサッシや木造の柱梁など)を採用してビルをつくるというユニークなアイディアが出てきました。その結果、意匠においても構造面においても建築物としての独自性が高いばかりでなく、閑静な住宅地にも違和感なく共存できるオフィスビルが完成しました。
耐震性をクリアしてシンプルな大空間を実現
住宅用アルミサッシを使用したことで、外観ファサードに面白い効果が生まれました。窓列が7層あるため、一見、多階数の印象を与えますが、実は2階建てです。実際には4階建てでも十分な高さは確保できますが、スタッフがのびのびと働けるよう1階の天井高を思い切って高くしました。また、オフィスビルの建築で重要課題となる耐震性については、構造設計の段階で、鉄骨造と木造の組み合わせで構成する『木質ラーメン構造』を採用。かなり難易度の高いチャレンジングな試みだったようですが、ブレースや筋交いがが露見することもなく耐震性をクリアして、柱と梁の構成でシンプルな大空間が実現しました。
街と職場を遮らないオフィスのカタチ
1階にはアスファルトを敷いています。これは、「外部と屋内空間をシームレスにして欲しい」という要望が具現化されたものです。実はこれもカヤックの「まち全体が僕らのオフィスです」というコンセプトを反映した"オフィスのカタチ"です。カヤックのオフィスは鎌倉市の各所に点在しています。会議をおこなう際は、各所からこの会議棟に集まって来るわけですが、物理的にも精神的にも、そうした流れを遮らないシームレスな拠点であって欲しいと考えました。建物の中に植栽(本物の植物)を入れているのも同じ理由からで、「街と職場を繋げる」という発想に基づいたアーキテクチャになっています。
ぼくらが考えたウィズコロナへの1つの回答
カヤックにとってのオフィスは仲間が集まる大事な場所です。コロナによって対面でのコミュニケーションが困難になる中、それでもみんなが出社したくなるようなオフィスの在り方を改めて考えました。そこで出てきたアイディアが"焚火"を囲んでの対話です。抽象的な言い方になりますが、学校に行くのが楽しみだったのは、勉強だけではなく例えば部室のような場所で仲間に会うのが楽しかったからではないでしょうか。そうした発想を会社に置き換えて、昨年末から焚火ができる会議室の運用を開始しました。焚火には不思議な力があって、火を見ながら話すと素直になれます。そんな中から新しいアイディアも出てきます。また、屋外なので密になる心配もありません。