陸上競技の価値創造(国際競技力向上、ウェルネス陸上の実現、競技会運営、人材育成)を主導する公益財団法人日本陸上競技連盟(JAAF)。東京五輪2020に先駆け、2019年6月に新国立競技場に近接したJAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREにオフィスを移しました。エントランスに足を踏み入れると、躍動感に満ちたウォールアートが来訪者を出迎え、執務エリアまで続く陸上競技のトラックレーンが、日本陸上界のキーステーションであることを象徴しています。高い公益性を行政から認可された法人であり、日本のスポーツ振興を牽引してゆく組織に相応しい職場環境を具現化したキーマン、事務局長の鈴木英穂氏にお話しを伺いました。
世界に誇れる日本陸連の顔づくり(エントランス)
エントランスはオフィスの顔になるスペース。日本陸連オフィスのシンボルであり、陸上競技の象徴になるような空間づくりを視野に入れて、インパクトのあるウォールアートの設置が決まりました。絵のコンセプトは陸上の象徴でもある「走る」「跳ぶ」「投げる」の3アクション。アートワークは"躍動"をテーマとしたエネルギッシュな作品を数多く手がけるアーティストの山下良平氏。スポーツに携わるものとして「力強くありたい」という想いを込めて、来訪者の目を引くような作品を依頼したそうです。
エントランスの入り口から執務エリアに向けて、湾曲してフロアに延びるラインはトラックレーンをイメージしたナビゲートラインになっています。さらにトラックレーンのインフィールドには、3つに色分けされた高さと素材が異なるソファーを配置。これは金・銀・銅の表彰台をイメージしているそうです。
移転前の小田急第一生命ビルのオフィスでは、日本全国から送られてきた陸上競技関連のポスターを壁にパネル展示していましたが、コストも手間も時間もかかるため、オフィス移転を機に、全てデジタルサイネージでのPRに変更。以降、大会やイベント告知のパネル等の展示は禁止。一切の無駄を省いた空間だからこそ、アートウォールや表彰台をデフォルメしたソファーといった"象徴"たちが際立ちます。
エントランスから執務エリアを橋渡しする4つの会議室は、可動式の仕切りを折りたたむと大会議室に。最近でこそオンライン会議が主流ですが、以前は40人規模の会議が頻繁におこなわれていたそうです。各々の会議室は「ATHLETICS」「RUN」「JUMP」「THROW」に分けられています。それぞれの部屋をA、B、C、Dで呼ぶのでは味気ないということで、遊び心でペットネームを付けたそうです。
自席にとらわれないワークスペース(執務エリア)
JAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREにオフィスを移転して、執務エリアのあらゆる場所がワークスペースになりました。そのワークスタイルを享受できるよう、至るところにソファセットや大小のデスク&チェア、立ち会議スペース等が設置され、職員の皆さんは好きな場所を選んで仕事をしていました。
予めテーマと時間を決めておこなう会議ではなく、仕事の流れの中で、ちょっとした摺り合わせや確認をおこないたい場合は、執務エリアに入って左側に設けられたファミレス席が使用されています。ファミレス席は、隔離性や機密性が低くセミクローズドな空間であるため、会議室のような堅苦しさがなく、多目的かつ気軽に使うことができます。クローズドな空間の会議室と使い分けることで、オフィスの利用効率を向上させているそうです。
ファミレス席の向かいには、コロシアム状にカーブを描いたフリースペースが設けられています。60インチのモニターが設置されていて、以前はここでテレビ会議をすることもあったそうです。現在は、パソコンを持ち込んで仕事をしたり、休憩タイムを過ごしたり、職員の方々が思い思いの使い方をしています。
オフィス什器を効率よく詰め込むプランに疑問。そこがスタートでした。
公益財団法人 日本陸上競技連盟 事務局長 鈴木英穂さん
固定席50で、70人までの増員計画
日本陸連のオフィスは、2012年11月まで岸記念体育会館に拠点を置いていました。岸記念体育会館は築60年ほどの古い建物で、老朽化に加えて東日本大震災の影響で、いたるところに深刻なダメージを受けていました。ちょうどその頃、組織の規模を拡大していくタイミングでもあったため、同年12月に小田急第一生命ビルに移転。さらに職員が30人を越えたあたりからそちらのビルも手狭になり、新たな物件を探すタイミングでここ(JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE)の話がありました。
仕事の性質上打ち合わせが多いのですが、前のビルは会議室が少なく、外部の会議室を借りることもあったため、ここには会議室を4つ、さらには執務エリアには簡単な打ち合わせができるファミレス席を設けて、会議室不足による不便や不都合を解消しました。また、現在は職員の固定席を50席設けていますが、将来的には70人くらいまで職員を増やす計画です。フリーアドレスと在宅勤務を組み合わせれば、固定席をこれ以上増やさなくても100人くらいまでは増員できると思います。
オフィスは単なる事務スペースではない
JAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREへの移転にあたっては、小田急第一生命ビルに入居した時お世話になったオフィスメーカーに相談してプランを提案してもらいました。ところが、最初に出てきたものを見て、漠然と「これでいいのかな」と感じたんです。そこで、最近のオフィス事情をネットで調べ、実際にオフィス見学にも行ったところ、衝撃を受けました。
提案を受けたプランは、デスクやチェアといったオフィス什器を効率よく詰め込んだものでしたが、前のオフィス(小田急第一生命ビル)もそのような設計でしたので「これでいいのか」と思いながらも概念的には理解できていたんです。ところが、他所の会社に見学に行ったところ、これまでの概念が崩れ去りました。空間の使い方が本当にきれいで、効率重視のいわゆる"オフィスっぽさ"が全くありません。そこで抜本的にプランを練り直そうと思い、オフィス設計専門のデザイン会社に相談しました。
出てきたプランを見てまず驚いたのがエントランスの空間の使い方です。デスクやチェアといったオフィス什器が何もない。こうしたスペースは無駄ではないかと訊ねたところ、「ここにオフィス什器を入れたら、日本陸連の顔がなくなってしまいませんか」と。それまで私たちには、「日本陸連の顔をつくる」という発想はなく、「あくまでもオフィスは事務スペース」としか考えていなかったんです。ところが、「ここは陸上界の象徴的な場所であり、世界中からさまざまな人が訪れる場所です。そこはしっかりと意識された方がいい」と諭され、大いに納得。それは私どもにとって、目からウロコの出来事でした。
固定電話を廃止してDialpadを採用
昨今は電話を増設しようと思ったら、電話機を繋げるだけではなくSEを呼んで回線を設定してもらわなければなりません。それに加えて、机の上のスペースもとるので、移転を機にオフィスから電話機をなくそうと思い、Dialpadという電話システムを導入しました。
我々の仕事では、大会の期間だけ新しい電話回線を確保しなくてはならず、これが結構なコストと手間になります。ところがDialpadはインターネット回線を利用しているのでスマートフォンで受信が可能。ネット環境さえあれば新たに電話回線を確保する必要がありません。また、以前は電話応対の情報共有ができておらず、度々問い合わせをいただいた方に対しても、電話を取る職員が違えば、改めて最初から内容を聞くようなこともありました。
その点Dialpadなら、相手先の電話番号と応対履歴を残しておけますし、その情報に誰でもアクセスすることができます。その結果、窓口が変わってもスムーズに電話を引き継げるようになり、効率的な対応ができるようになりました。今はインターネットの時代なので思い切って切り替えたのは大正解だったと思います。
オフィスは職員たちのココロの拠り所
人がものを選ぶときは、きたないものより、きれいなものを選ぶのが普通です。そういった単純な想いが感情を支配します。これから新卒学生の採用や中途採用をおこなう予定ですが、まずエントランスに入った瞬間に、「このオフィスかっこいい!」と思ってもらえたら幸いです。投資はかなりしましたが、オフィスの良し悪しは、人材採用の成果をも大きく左右すると思います。
それは今いる職員の気持ちも然りです。コロナになって在宅勤務が増えましたが、今ではここが職員たちの拠り所となって安心感をもたらしていると思います。仕事がし易い環境であることはもちろん、来訪者に対しても胸を張れるオフィスであることが大事です。