競争が激しい日本の教育業界の中で、『公文式』という独自路線で成長を続けている株式会社公文教育研究会。公文式とは、年齢や学年の枠にとらわれることなく自分の力に応じてどんどん先に進める学習法で、受験を視野に入れた進学塾などとは一線を画します。教室の運営はフランチャイズ形式で先生を募り、国内約1万5600教室、海外でも60を超える国と地域で約8300もの教室を展開しています。
この丸の内オフィスの役割は、東京に所在する教室の運営や指導方法、指導者の採用や育成をコンサルティングする事務局。約200名の社員が働いています。コロナ禍以前からリモートワークを導入して『働き方改革』への取り組みをスタートさせていたKUMONは、将来を見据え、社員同士が互いに学び合いさらなる成長を促していくために「オフィスの果たすべき役割」を検討。都内に分散していた5エリア(品川・池袋・新宿・上野・立川)を再編して2018年12月にこちらのオフィスに移転しました。
グローバル化が進むKUMONの心臓部として
来訪者が最初に目にするエントランスは、まさしく"会社の顔"であり、その会社のイメージに直結します。つまりエントランスは、レイアウトやデザイン次第で先進性や親近感といった自社の個性をアピールできる"媒体"にもなり得るのです。
アピールポイントは「世界への広がり」。グローバルな展開が難しいと言われる教育業界にあって、60を超える国と地域に"学び"を届ける『KUMON』は、今や世界の共通語となっています。その誇りと自信は、エントランス正面に設置された世界各地の拠点を示した世界地図が象徴しており、コーポレートカラーのKUMONブルーのあしらいが清潔感を醸成しています。
エントランスの入り口を入った左手には、間仕切りのないシェアコミュニケーションエリアが広がっています。方針を指導者と共有したり、社員同士が情報をシェアすることは、効率化につながるだけでなく人間関係の維持や強化が期待できます。このエリアでは、情報やアイディアのシェア、意見交換などから生まれるコミュニケーションの促進につながるよう、リラックスして会話が出来るボックス席やミーティングテーブル、立ったまま利用できるハイテーブルなどが設置されています。
オープンなコミュニケーションスペース以外にも6人座りの面談スペースを設けて、来客や面接、社内ミーティングなどさまざまなシチュエーションに応じて使い分けています。透明ガラスのオープンな会議室は開放感があり室外との一体感を生み出しています。また、植物が視界に入ることでストレスの軽減にも。外からの目が気になる場合はスクリーンを下ろしてシャットアウトすることも可能です。
エントランスとシェアコミュニケーションエリアの裏手には105名分の座席が余裕で確保できる研修室が広がっています。スライディングウォールで間仕切れば45名1室、30名×2室という分割利用も可能。派手さはない空間ですが、KUMONの"未来創造"の一翼を担う心臓部であることを表している学びのスペースでもあります。
社員が成長していくためのワーキングエリア
エントランスやシェアコミュニケーションエリアの広々とした印象とは異なり、ワーキングエリアは迷路のようにデスクの間をぬって歩く動線が特徴的。このゾーニングには理由があります。
5つの事務局をこちらのオフィスに集約する際、最大の課題は、いかにすれば見知らぬ相手(他の事務局の社員)とのコミュニケーションを促進できるかでした。その課題の解決策が、フリーアドレス化と、あえて不規則なデスク配置をおこなうクロス型レイアウトの採用です。そこから新たな気づきが生まれ"社員が成長していくためのワークスペース"というコンセプトに合った空間が実現しました。
オフィスのフリーアドレス化は、コミュニケーションの活性化や、プロジェクトごとにメンバーが集まり仕事が出来る効率化というメリットがあります。その一方、ワーキングエリアそのものがコミュニケーションスペースとなるため、集中して仕事に取り組みにくいというデメリットもあります。フリーアドレスを導入するなら個人ワークに没頭できるスペースも必要と考え、集中ブースも設置されています。
ワーキングエリアの中央に配置されたリーダー席。移転当初は各事務局のリーダーたちがこの半円形のデスクに座って仕事をしていました。"同じ立場の役職者がすぐ近くで仕事をしている"という環境は各リーダーにとって、実務的にも精神的にも大きなメリットがあったそうです。
例えば、メンバーから判断が難しい相談をされた時、他のリーダーに意見を求めればより良いアドバイスをすることが出来ます。また相談者の方もリーダー同士のやり取りを見ながら新たな発見がある。リーダー席は役職者同士のコミュニケーションを活性化させ、仕事を円滑に進めるための斬新な試みでした。
ワーキングエリアの一角にかなり広めの空間を確保して、ワークショップや意見交換などが自由自在におこなえるオープンコラボレーションエリアを設けています。ここは「こんなことがやりたい」と社員から自発的に上がった声に対して、それを実現していくことを目的に設けられたスペースです。"価値の共有"を何よりも大切にしているKUMONにとって極めて重要な空間で、ワーキングエリアの主動線はここを経由するよう設計されているため社員同士の自然な交流が生まれます。
また、オープンコラボレーションエリアの横に設けられたカフェカウンターは、ワーキングエリアとの間仕切りの役割も果たしています。軽い打ち合わせや仕事をする社員も多く、ノートパソコンを広げるとちょうどいい高さになる使い勝手の良いカウンターです。
昼時のランチスペースとして、リフレッシュや作業スペースとして、その時々の気分や目的に応じてフレキシブルに利用することが出来るコミュニケーションスペース。
ワーキングエリアの一角にありながらウッドシェルフで仕切られた半個室の室内は、落ち着いた雰囲気があって、オン・オフが切り替えやすい空間です。また、日ごろの仕事では交流のない社員同士がここで出会い、コミュニケーションを取るきっかけにもなる。社内に一体感をもたらし、活性化につながるスペースです。
社員みんなが成長できるオフィスづくりを。
総務部 総務チーム 担当リーダー 品川 宏さま
オフィスづくりにあたっては『Working』というワーキンググループをつくって「新しいオフィスで何を目指すのか」を検討しました。そこから生まれたのが、「TSUNAGU NOBASU HIROGERU」というコンセプトです。それまでは各々の事務局がそれぞれの仕事の仕方をしていたわけですが、5つの拠点がせっかく1つになるのだからコミュニケーションを密にして知恵を出し合い、社員みんなが足並みを揃えて成長できるような職場にしたい。そんなオフィスづくりを指向しました。
知恵を絞ったのは、ワーキングエリアにおいて社員同士の接点を生み出す"ゾーニングとデスクの配置"です。いろいろ検討した結果、全面をフリーアドレスとしつつ、デスク配置に『クロス型レイアウト』を採用。デスクを縦横に交差させてジグザグの通路にすることで、エリア内の動線が固定化することを防いで、社員同士の偶発的な接点を増やしコミュニケーションを活性化させようという試みです。さらに、主体的な学びの機会や活発な意見交換がおこなえるコラボレーションエリアをワーキングエリア内に設けるなど、かなり贅沢なスペースの使い方だと思いますが、いずれも有意義に機能しました。
コロナ禍以降は社員がオフィスで仕事をすることが少なくなり、指導者の採用などもオンラインでおこなうようになりました。ただ個人的には、"集まることの大切さ"を感じることが少なくありません。オフィスに来て久しぶりに会った社員とのちょっとした会話や情報交換が思いがけず刺激になったり、人と会うことの大切さやリアルな空間の大事さを感じることが多々あります。
またコロナ以前は、日常的に明確な目的意識を持って出社していた社員は少なかったと思います。ところが出社する機会が減ると、オフィスに来る意義が明確化され、より有意義にオフィスワークに勤しむ社員が増えたように思います。
しかしながら、オンラインで仕事を効率的に進められるようになったことは事実で、それはこれからも活かしていくべきだとも思います。つまり、オフィスワークかオンラインワークかの二者択一ではなく、両方の良さを上手く活かしていくこと、またそれが出来る仕組みを整えていくことが社員の成長につながるのではないか、私はそのように考えています。