兼松株式会社は、2022年11月に東京本社を浜松町から丸の内JPタワーに移転。「30年後の兼松」を見据えて新しい働き方をスタートしました。偶発的なコミュニケーション機会の創出を経営戦略の重要課題とし、「優れた企業文化・らしさの継承による兼松ブランドの協調」「従業員満足度の向上」など11のゴールを設定。ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を軸としたオフィスの刷新により「世界から注目される最先端のワークプレイス」を具現化しました。これにより、英国インテリアデザイン協会主催の「SBID International Design Awards 2023」のオフィスデザイン部門でアジア最優秀賞を受賞しています。
社員の自律性を育むべくABWを導入
働く場所の変化は、働き方や働く人の意識の変化にも影響します。コロナ禍以前は、全社員がオフィスに出社して自分のデスクで仕事をするのが当たり前でしたが、コロナ禍後は働き方が多様化してオフィスという『場所』の在り方が改めて問われるようになりました。
兼松では、オフィス移転に合わせて「場所がひとをつくる」という考えのもとABWを導入してワークスタイルを一新。自分ひとりで集中したい時に使うパーソナルエリア、グループワークやディスカッションがおこなえるシェアリングエリアなど、社員一人ひとりの要望に応えられるよう多様なタイプの『場所』を整備しました。
その日の気分や必要に応じて自ら働く場所を変えることで業務効率が向上し、自律的に仕事に取り組む姿勢が生まれます。また、「他部門の人がどのような仕事をしているのかわからない」といった声をしばしば耳にしますが、今後、多様な人たちが職場に参画してくるワークダイバーシティの拡大を考えれば、社員同士がお互いの状況を共有しながら、「ちょうどいい距離感」で働くことはとても重要だといえるでしょう。
交流のハブステーション CAFE THE Perch
同じ部門同士であれば必然的に交流機会はありますが、異なる部門の社員とは交流がなく「お互いに顔は知ってはいるけれど話したことはない」ということも珍しくありません。オフィスにカフェスペースを設けることで自然とそこに集まった社員同士の間に会話が生まれ、社内全体のコミュニケーションが活性化するきっかけになります。
16階の『CAFE THE Perch』は、交流の中心として、部門や役職の垣根を問わず毎日人が集まるリフレッシュエリアです。昼間はカフェやランチの食事提供に加えて、ワークプレイスとしての利用も可能。月・水・金の夜はバータイムに切り替わります。
また、ここで提供される食材(コーヒー豆や食肉など)は兼松が取り扱うものを使用するなど、社員のエンゲージメントを高める工夫も施されています。さらにCAFE THE Perch周辺は、洗練された家具で構成されたカフェエリアとして、イベントの開催などによるコラボレーションが生まれる場にもなっています。
フロア間の快適な移動を実現したコミュニケーションホワイエ(内階段)
オフィスの中心に16階と17階の2フロアをつなぐ内階段を配置することで、上下階の快適な移動を実現しています。ここを行き来する社員間でコミュニケーションが生まれ、そこから思いがけないコラボレーションに発展することも期待されています。
CAFE THE Perchも含め、こうしたスペースでのコミュニケーションプロセスを兼松では「偶発的な出会い」と呼んでおり、なんでもない世間話から、仕事に役立ちそうな情報交換、他部門との連携やアイデアの創出に繋がるヒントを得て、一人ひとりが主体的に仕事に取り組むマインドを養っていく目論見もあるのだとか。これは兼松が標榜する「少数精鋭のプロ集団」のボトムとなる考え方でもあります。
知の集積地であり、ワークプレイスでもある
17階のワークプレイスの一角に設置されたライブラリーは「知のバトンを受け取る空間」というコンセプトに基づきデザインされています。兼松や日本の歴史だけではなく、取引先諸国の文化や歴史、商社としてビジネスに必要な運輸や法務などの専門知識にまつわる書物を1,000冊超陳列。多種多様なジャンルの書物から多くの知識を吸収して「自由に発想してインスピレーションを得られる場であってほしい」という思いが具現化されています。
ライブラリーには、作業用デスクや集中ブースも設けられており仕事をすることも可能です。ただし、当然ながら通話や談話は禁止。アクティブな執務エリアとは雰囲気が全く異なる静粛さの中で、リラックスしながら超集中して自分の仕事に取り組むことができます。ライブラリーという『知の集積地』でありながら、多様な働き方に柔軟に対応したワークプレイスの1つとなっていました。
活発な議論を後押しするオープンエリア
リラックスしている時ほどアイデアは生まれやすくなります。肩の力を抜くことで発想力や創造性の向上が期待でき、柔軟に物事を考えられるようにもなります。その前提は、執務エリアの奥に設置されたオープンな雰囲気のプレゼンテーションエリアとディスカッションエリアにも反映されていました。
あえて壁を設けないことで、活発な議論を後押しして共創の促進を図るばかりでなく、プレゼンや議論の活気や熱気が周囲に伝わり程よい刺激を与えています。オープンスペースにしたことで他部門の業務を知って興味を持つきっかけになり、部門の枠を超えた連携による新たなシナジーの創出が期待されています。
アジアで最も優れたオフィスデザイン
エントランスから執務エリアに続く木製のルーバーが成長の勢いを表現したシンボルとなっている兼松東京本社の新オフィス。2023年11月、英国インテリアデザイン協会が主催する国際的なデザイン賞「SBID International Design Awards 2023」のオフィスデザイン部門(2,000㎡以上)においてアジアの最優秀賞を受賞しました。
また、日本経済新聞社と一般社団法人ニューオフィス推進協会(NOPA)が共催する第36回日経ニューオフィス賞では、応募総数132件から1件のみが表彰される最高賞『経済産業大臣賞』も受賞しています。
兼松の次代を担う若いチカラを最大化できるオフィスを。
総務部 総務課長 梶内 尚史さま
総務部 総務課 中井 愛子さま
梶内:2019年に創業130周年を迎えた際、改めて「社の機能を見直そう」ということになりました。これが移転のきっかけです。新オフィスに求めた条件は、JRの駅に近い場所であること。そして、兼松が新たな成長のステージに入っていることを社内外にアピールできるような先進的なインテリジェントビルであることでした。虎ノ門や日本橋なども検討しましたが、通勤や来客のアクセスの利便性を考えると最寄り駅がJRの方が良いだろうということで、東京駅に直結した『丸の内JPタワー』に移転を決めました。
当社は「電子・デバイス」「食糧」「食品」「畜産」「鉄鋼・素材・プラント」「車両・航空」の6つの事業を展開する総合商社ですが、強みとしているのは、常に新しい事業創造に重きを置く独自のカンパニー・カルチャーです。それを活性化するためには、さまざまな部門との有機的な交流ができるオフィス空間であることが求められます。そこで導入したのが仕事内容に合わせて時間や場所を自由に選択できるABWでした。
芝浦シーバンス(旧本社)の頃は昔ながらの島型対向オフィスで机も昭和の雰囲気を残したスチール机でした。そのような環境では毎日同じ席で同じメンバーと顔を突き合わせながら仕事をすることになり、クリエイティブな発想も広がりにくく、個人や会社の成長に限界が感じられていました。
そこで新しいオフィスは、部門や年代、役職の壁を越えてフラットなコミュニケーションが取れるような、既成概念にとらわれない「尖ったオフィス創りをしようじゃないか」ということになったのです。
中井:私は新入社員として移転プロジェクトに参加しました。ですから、「一般的な商社の働き方はこういうもの」とか「固定席や島型オフィスは昭和っぽくて時代遅れ」といったイメージは持っていません。ただ、プロジェクトを進めていく中で、「ABWのような働き方では仕事が出来ない」と言う声を聞くこともあり、その都度「えっ、どうして?」と疑問に思っていました。
総務部には固定席がなく、私は入社以来ずっとフリーアドレスで"ABW的な働き方"をしていたので、「自分の席がないと仕事が出来ない」という考え方が分かりません。一緒に作業する必要があれば近くに座ればいいし、集中して仕事を進めたいのであれば1人になれる場所を選べばいい。その方が効率的ですし、社員同士が影響し合う機会が増えてエンゲージメントも向上します。
かつて総務部にフリーアドレスを導入する時も「一部批判的な意見があった」と梶内から聞いていましたが、「総務部で導入・運用に成功したのだから他の部署でも固定席はなくても仕事はできる」と確信していました。
ただやはり、ABWを採用するにあたっては規模感が障壁になると思います。兼松東京本社の従業員数は現在800人ほどです。これが1000人、2000人と大所帯になればなるほど、勤怠管理や人事評価などさまざまな面で労務管理が難しくなるのではないでしょうか。
梶内:人も事業も、従来の日本型のビジネス思考ではこれからは成長するのが難しくなっていくだろうと私は思っています。まして商社には工場や研究所があるわけでもなく、新たな発想や機動力で勝負しなければなりません。そこで近年当社では、採用ベースから目先を変え、外国籍や海外の大学を卒業した学生の採用を増やしています。
兼松のマーケットは世界です。多様化するワールドニーズに対して、適切かつ新たな価値提供をおこなうためには、多様性を受容しそれを活かしていくことが不可欠です。そのためには異なる環境で教育を受けてグローバルな視点を持つ人たちとコミュニケートしていかないと斬新な事業のアイデアは生まれてこないし、企業として成長するのも困難です。
こうしたことから新オフィスは、ただ単にABWを導入するばかりでなく簡単な打ち合わせが手軽にできるオープンスペースを数多く確保したり、交流を生み出す"装置"としてカフェスペースの充実を図ったり、オープンな雰囲気のプレゼンテーションエリアを設けるなどして、新しい出会いが生まれる環境を整えました。そうした中でも、特筆すべきエリアはやはり、自然と人が集まるカフェスペースCAFE THE Perchではないでしょうか。
私の世代にはなかなかイメージしにくい部分もありますが、中井のように若い世代は学生の頃から自分の家で勉強するよりもカフェやファストフードで勉強するのが当たり前になっていて、その方が能率が上がると言います。
そういった感覚は仕事にも当てはまるようで、彼らは、早くからCAFE THE Perchでコラボレーションを始めていました。そしてこれからの兼松を担って行くのはこうした若いチカラです。であるならば、若いチカラを最大化できるオフィスでなくてはならない。いささか極論になりますが、これからのオフィスにはカフェスペースがあるのは当然で、その充実度が企業の業績を左右する鍵になるかもしれません。
中井:社内をご覧いただくと分かりますが、兼松は若い社員の出社率が高くその多くが私と同じようにカフェを"自習室"にしてきた世代です。ですから、狭い自宅でリモートワークをするよりも、CAFE THE Perchで同期とお喋りしたりお茶を飲んだり、息抜きしながら仕事を進めた方が生産性も高まるし、気分的にも落ち着きます。これからのオフィスはただ働く場所ではなく、来るのが楽しみになるような仕掛けがないと機能しないのではないかと思います。