良い仕事をする上で大事なのは間違いなくオフィスの環境です。成長を遂げている会社は、確固たる戦略性や会社の思想に基づいて"働き方のカタチ"をオフィスで具現化しているものです。ここではそれを実現させた企業にフォーカスして、新たな時代に相応しいオフィスの数々をシリーズでご紹介してゆきます。
中小企業にRPAを取り入れた働き方改革を!
ディップ株式会社の新オフィス『デジレバ』
「バイトル」、「バイトルNEXT」、「はたらこねっと」、「ナースではたらこ」などの人材情報サービスで全国展開しているディップ株式会社が、2019年3月、新ビジョン「labor force solution company」を掲げてAI・RPA事業本部を設立。これまで人手を介しておこなってきた定例業務をロボットが代行する、誰でも・手軽に・すぐに導入できるロボット『コボット』を市場導入しました。同年11月には、飲食・小売業向けに、応募が届くと即時に応募者へ面接希望日を設定できるサービス『面接コボット』の提供を開始しています。今回は新型コロナ拡大直前の2月25日に、東京・渋谷に開設したAI・RPA事業本部の新オフィス『デジレバ(Digital labor forceの通称)』を訪ねました。
※ RPA(Robotic Process Automation)とは、ルーティンワークなどをソフトウェアに組み込まれたロボットが代行する取り組み。
遊び心とホスピタリティに満ちた共有スペース
新オフィスのコンセプトは「明るく、自由な空間」。各所に、その基本概念を印象づけるオフィスデザインがされています。その一端を執務室前に広がるオープンタイプのエントランスで垣間見ることができました。
ローステージを設けた多目的セミナールームや、軽く嗜み交流を深めるバーカウンター、知識と教養の交差点となるライブラリー、さらには世界各地のサッカースタジアムの名前を冠したミーティングスペースが4部屋。いずれも、さりげない遊び心やホスピタリティに満ちた共有スペースとなっています。現在はコロナ対策実施中とありバーカウンターは休眠状態。残念ながら「グラス片手にお話しを...」という密かな願いは叶いませんでした。
最新テクノロジーでオフィスの"顔づくり"を
新オフィス開設にあたっては、デジタルに特化した事業部に相応しいオフィスづくりを標榜し、最先端技術を集結させてオフィスの"顔づくり"をおこないました。その象徴といえるのが、エントランス正面に設置されたDigital Information Wall (デジタルインフォメーションウォール)と呼ばれるタッチパネルサイネージ。ディップが発信する情報を、グラフィカルかつインタラクティブに見ることができます。気になる画像や動画に触れると画面が拡大して詳細な情報にアクセスできるこのウォールは、直感的な操作で、楽しみながらディップの多彩なサービスについて知るきっかけをつくり、新しい発見を生み出します。
コミュニケーション&パーソナルの執務エリア
デジレバではフリーアドレスを採用。執務エリアは、機能性と働き易さ、そしてスピード感を追求した設備や工夫がいたる所に施されていました。まず驚いたのは規則性のないデスク配置です。このエリアでは営業、エンジニア、コンサルなどが協働しており、コミュニケーションをとりながら仕事を進めているためオフィス内のアクセシビリティはマストな条件。これを実現するために、デスクのレイアウトをランダムに展開して広い通路と動線の多彩さを確保していました。
またオフィスの一角には、超集中型の「パーソナルブース」が設けられています。本来は、WEB会議専用ルームを執務エリアに隣接させて12席を配置していたそうですが、現在は"密を防ぐ"ためにその一部を執務エリアに移動。「誰にも邪魔されずに作業に集中したい」という社員のニーズに応えているそうです。その他、「ファミレス席」や「スタンディングデスク」などを設けたことで、わざわざミーティングルームを使うまでもない打合せがスムーズかつ時短でおこなえるようになったと言います。
アイディアを可視化するアナログツール
ミーティングルームはもとより執務エリアの至るところにホワイトボードが設置されているのもこちらのオフィスの特長です。最先端のデジタル技術で会社の"顔づくり"をおこない、機能性と効率性を追求した新オフィスですが、ビジネスの土台となる"idea"の創出は、このアナログなツールの助力が欠かせないと言います。
ホワイトボードの活用は、会議を効率化することができ、生産性の向上にも繋がります。その理由は、①参加メンバーの一体感をつくり出せる、②すれ違ったままの議論がなくなる、③類似した発言が少なくなる、などが挙げられますが、デジレバのようなクリエイティブな仕事においては、ブレーンストーミングの中で縛りのないアイディアラッシュが不可欠。ホワイトボードはそれらを可視化し、ブラッシュアップしてゆく"アイディアのステージ"でもあるのです。
10年かかるevolutionがわずか半年で現実に。
ここから一気呵成!ディップ株式会社『デジレバ』のオフィス
ディップ株式会社 AI・RPA事業本部本部長 三浦 日出樹さん
このビルの5階にはディップ渋谷オフィスがあります。ここを第2渋谷オフィスにしなかったのは、AI・RPA事業はこれまでのディップの事業ドメインとは異なる"独立拠点"であるといった理由からです。ディップがもともとおこなっている事業は「労働力=人」、いわゆる"Human labor"がドメインです。一方、我々が手掛ける事業は「労働力=ロボット(AI・RPA)」で、事業ドメインは"Digital labor"となります。そうしたことから"デジレバ"という独自のネーミングを設けてディップ本体との棲み分けをはかった次第です。
AI・RPA事業本部立ち上げの依頼を受けてまず驚いたことは、この会社(ディップ)にはホワイトボードがどこにもなかったことです。そのことにとても違和感がありました。商品をゼロからつくり上げる場合、いろいろな意見を出し合いながら、それをどんどんホワイトボードに書いてゆき、ディスカッションの中で商品を企画することが少なくありません。最初はタッチペンタブレットを使用していましたが、反応が微妙に遅れたり使い勝手が悪く、結局のところアナログなホワイトボードに落ち着きました。
我々の仕事は斬新かつ高度なクリエイティビティを必要としますが、人が使うものを人が考えてつくるわけですので、人間の本質のようなことが分かっていないと失敗します。よくありがちなのは、テクノロジー的にはとてもイケているけれど、アナログな人間が使いづらいというもの。これでは本末転倒です。
よく、「AIやロボットが人間の仕事を奪う」と言われますが、我々はそのようなイメージは全く持っていません。むしろアンケートを取ってみると、一番苦痛な仕事は「単純なルーティンワーク」で、しかも現実にはそのような仕事をしている人が多いのです。そうした仕事はAIやRPAに任せて、本来やるべき仕事に注力できる。今はそうした時代なのです。
ただ、ディップのお客さまの多くは中小企業ですので、RPAやロボットの話をすると難しいと思われて、「うちには関係ない」と拒絶反応を示されます。なので、頭ごなしにRPAの話をするのではなく、「『コボット』という弊社のサービスが、御社のルーティン業務を代行しますよ」といったスタンスで話をします。
RPAやDX(デジタルトランスフォーメーション)はコロナによって再注目されていますが、それは大企業の話で、中小企業に関しては停滞しています。加えて、AI・RPA事業に関してディップは後発です。しかしながら、これまで"Human labor"の課題解決で、より深く企業の内部に踏み込んで仕事をしてきた経験則と情報力は他所にはないアドバンテージです。アルバイトを雇うように、『コボット』を導入していただける日はそう遠くないと思います。
コロナの大旋風は我々の事業にとってフォローです。これには色々な意味合いがありますが、中小企業が「コロナのような事態になったらデジタルツールが使えないと仕事ができなくなる」と思えたことが最も大きなポイントです。以前であれば、Zoomで営業するなどと言おうものなら、「軽んじられている」といったイメージがありましたが、今ではそれが普通になっている。これは劇的な変化です。
率直なところ、日本人のデジタル・アレルギーがこの事業を始めるときの一番の不安材料でした。10年くらいかかると思っていましたが、コロナになったことで、わずか半年でその時代が到来したと思っています。Zoomもコロナ以前からありましたが、オンライン飲み会など誰も考えたことはありませんでした。ところが、デジタルに対する日本人の障壁がコロナによって一気に下がり、様々なシーンで活用されるようになりました。いいタイミングで事業を立ち上げることができたと思っています。
■記事公開日:2020/11/04 ■記事取材日: 2020/10/09 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=田尻光久