金融ITソリューション、公共法人ITソリューション、プラットフォームソリューションほか、ITコンサルティング全般の事業を展開するTDCソフト株式会社。日本におけるSIer(システムインテグレーター)企業の草分けです。その業態ゆえ、本社外常勤者(お客さま先でサービス提供する技術者)が多く、かねてよりエンゲージメントが向上する社内コミュニケーションが課題とされてきました。その必要性がコロナ禍でより強く顕在化。オフィス環境のグレードアップを「会社としてのシナジー効果を生み出す経営戦略」の一環として位置付け、本社機能を九段会館テラスへ移転。2023年10月10日より業務を開始。その新オフィスを、取締役執行役員 コーポレート分野担当 経営企画本部長・大垣剛氏、経営企画本部 経営戦略推進部部長 兼 広報室室長・弦牧竜也氏、経営企画本部 経営企画部・澤仁那氏にアテンドしていただきました。
1.レセプション・ラウンジエリア(4階)
お客さまをお迎えする4階レセプションとラウンジエリア。TDCソフトの60年以上に及ぶ歴史と新たなことに挑戦し続ける企業姿勢をアピールするデザインとなっています。基本コンセプトは「重厚感」。グレーを基調とした壁には本物の石材を使って、高級ホテルのクラブフロアのような格調高さを演出しています。
とはいえ、「あまり重々しくはしたくない」ということで、受付のカウンターはチャレンジングな社風を強調するために先進性の高い大胆なデザインを採用。ラウンジエリアに飾られていた「不易流行」の書が示す通り、変わらないもの、変えてはならないものを大切にしつつも、時代の潮流や社会の変容に的確に対応できるよう新たなチャレンジを続けるTDCソフトの"思想の核"をここに感じることができました。
2.プレゼンテーションエリア(5階)
5階フロアは本社外常勤者が帰社した際に、自然とフロア内を回遊し交流が促進されるように、フロア内の動線を分断する壁を取り除き、開放的な空間を実現しています。その中心に位置するのが5階フロアで最も賑やかな場所に位置する(通常時は大きな窓から武道館が一望できる)プレゼンテーションエリアです。
ここでは主に、社員向けの研修やイベントなどが開催されるということですが、何しろその機材と設備の充実ぶりには目を見張るものがありました。プレゼン用のシアタースクリーンが横並びに3基(各々のスクリーンに3機のプロジェクターで投影可能)、音声も映画館並みのサラウンドが体感できます。また、可動式のスライディングウォールで間仕切れば、遮音することもできるそうです。
しかしながら、なぜこれだけの設備投資をおこない、オフィスのど真ん中にプレゼンテーションエリアを設けたのか?今回の「移転プロジェクト」で指揮を振るった弦牧さんは次のようにお話しくださいました。
「本社外常勤者が帰社する目的の多くは社内研修です。そうした中、本社に常勤している社員の執務スペースと研修をする場所が離れていると社員間にコミュニケーションが生まれません。そこの改善が今回の移転プロジェクトの大きなミッションでした。本社外常勤者が帰社した時に"戻る場所をどこにつくるか"の議論を重ねた結果、いっそ、フロアの真ん中に研修エリアを設けたらどうだろう...ということになった次第です」。
3.コラボレーションエリア(5階)
オフィスの中心に構えるプレゼンテーションエリアと隣りあった(武道館を望む窓側)ゾーンにはカフェスタイルのコラボレーションエリアが広がります。ソファー席、ファミレス席、カウンター席など、多様なタイプのシートが設けられ、その日の気分や目的に合わせて選ぶことが可能。社員同士が気軽にコンタクトし合い、アイデアを共有し、イノベーションを生み出すための工夫がなされています。また、フリーアドレスの利点を活かして社員一人ひとりが自分の仕事スタイルに合わせて「最適な仕事環境」を見つけることも。桜の季節には絶好のお花見スポットにもなるそうで、景観と交流を確保した抜群のオフィス環境が構築されていました。
4.フリーエリア(5階)
フリーアドレスの導入には幾つかのメリットがありますが、企業の期待値が最も高い導入効果は「自律的な働き方の促進」に他なりません。集中しやすい場所を自分で選び、その日の仕事に必要なものや環境を考えて仕事に向かうことで、仕事の組み立てに対して自律的に取り組むことができます。それを具現化するためには、タイプの異なる環境が多いほどいい。TDCソフトのフリーエリアには、靴を脱いで足を伸ばしてリラックスしながら仕事ができる芝生エリアをシンボルとして、高さの異なるテーブルセットなど、気分転換を図り生産性の向上が期待できるバリエーション豊かな「働き方の選択肢」が用意されていました。
5.フォーカスエリア(5階)
文字通り、静かな環境で仕事に集中したい時や、一人で作業に没頭したい時のために設けられたエリアです。Web会議をおこなう際は完全個室のWebブースを使用。周囲に声が漏れにくく、1名、2名、4名など複数の利用シーンを想定して最適なミーティング環境を構築。フォーカスエリアの半個室にはデスクトップモニターが設置されているためエンジニアもデュアルディスプレイで集中して作業ができます。
オープンな環境で社員同士がコミュニケーションをとりながら創造性に磨きをかける「コラボレーションエリア」と、機密性と効率を重視した「フォーカスエリア」に分けることで、「発想と実務」を行き来しながら、オフィスならではの価値を生み出すことを目指す。これがTDCソフトの「回遊するオフィス」です。多彩な空間を備えたことで、これまで難しかった働く場所のベストマッチングを実現させていました。
6.グループアドレスエリア(5階)
TDCソフトはフリーアドレスを採用していますが、組織ごとにグループアドレスゾーンが用意されています。ここには各組織の主要メンバー(役職者やマネージャー)が常駐しており、本社外常勤者が帰社した際などに自分の所属組織をすぐに識別できるようになっています。
しかしながらこのグループアドレスも永続的な固定席ではなく、3か月に1度のタイミングでローテーション(座席替え)をおこないます。帰社した社員の導線を固定化させず、偶発的なコミュニケーションの機会創出が狙いです。また、異なる組織同士が偶発的に隣り合うことでのコラボレーションが促進されることも視野に入れているそうです。
また、同じデスクを長く占有していると次第に私物化されて仕事と無関係なモノが置かれがちです。3か月のローテーションが決まっていればデスクも私物化されず、きれいにオフィスを保つこともできます。
7.TDC HUB(5階)
20人ほどが入るイベントスペースです。プロジェクト終了時の打ち上げなど、飲食を楽しみながら社員同士のコミュニケーションを深めることを目的としています。
グループで予約すると会社側が用意しているお酒、ソフトドリンク、お菓子、アイスクリームなどを1人300円で飲み放題・食べ放題。社員の利用頻度は「とても高い」とのことでした。当初はTDCソフトの社員だけに解放していましたが、最近ではお客さまを招いた "懇親会"などもおこなわれており、強固なビジネスネットワークの構築にもひと役買っているそうです。
8.ウェビナースタジオ(5階)
スマートフォンの普及によって会場集客型セミナーが減り、代わりにオンラインで受講できる「ウェビナー」型のセミナーや講演会が徐々に増えてきました。ウェビナーは、ネット環境さえあれば全国各地から参加できるため、参加のハードルが低くメリットの大きいラーニング・ツールと言えるでしょう。
TDCソフトでは移転を機に、ウェビナーの収録やWeb配信(ライブ配信)に最適なインターネット回線を完備したスタジオを完備。TDCソフトが提供するサービスのほか、企業のDX化を加速させ、ビジネスの価値向上に貢献する情報をYouTubeで配信しています。
組織力強化のカギは社内コミュニケーションの活性化
オフィス移転はエンゲージメント向上の施策
当社は独立系SIerとして老舗でありながら、常に新しいトレンドに挑戦してきました。新オフィスの移転先に九段会館テラスを選んだポイントは、九段会館という歴史的な建造物の趣を残しつつも最先端な設備が備わっていたところ。「創業60年の歴史と新たな挑戦」という当社のコンセプトがマッチしていたことが最も大きな理由として挙げられます。
SIerのビジネススタイルは、エンジニアがお客さま先に常駐することが多く、当社の場合は社員の半数以上が本社外常勤者です。基幹職や管理職、バックオフィス系の社員は本社におりますが、エンジニアは自社に戻ってくる機会も少ないため「エンゲージメントをいかに高めていくか」は長年の課題でもありました。
一般的にIT企業は離職率や技術トレンドの流動性が高い業界です。新しい技術を覚えると待遇を秤にかけて次のステップに進むエンジニアも少なくありません。だからこそエンゲージメントのような「会社に対する愛着心」が他業種よりも大切なのです。そうした矢先に新型コロナウイルス感染症が拡大。エンゲージメントをより高める施策としてオフィスの在り方を本質的に考え直し移転に至った次第です。
お客さまに誇れるようなオフィスでありたい
移転先が九段会館テラスに決まったのが2022年の11月で、移転完了の目標は23年の9月末。工期も含めるとかなりタイトなスケジュールで移転計画の実施が求められました。そこでまず、若手、中堅、リーダーとして、「TDCソフトの新しいオフィス像」を固めていきました。
社員アンケートの中で、とくに本社外常勤者からの要望が多かったのは「リラックスできるカフェスペース」の設置です。本社外常勤者が帰ってくるタイミングは、研修や部会、全社イベントや健康診断などを含めてもあまり多くはないのですが、以前のオフィスですと用事を済ませるとすぐに常駐しているお客さま先や自宅に帰っていました。基幹職やバックオフィスが上のフロアで、研修は下のフロアでおこなっていたという構造的な問題もありましたが、「せっかく来たのだから...」という気にさせる魅力やスペースが欠けていたのは事実です。
また、「お客さまや関係者に誇れるようなオフィスが欲しい」という要望も数多く見られました。エンジニアたちはさまざまなお客さま先に常駐していて最先端オフィスなどを体感しています。そうした環境下で働くうちに「自分の会社もお客さまに誇れるオフィスであって欲しい」という気持ちが芽生えたのだと思います。
ITに頼らずちょっとした不便をあえてつくる
作業として成果を出すだけならばテレワークだけで十分だと思います。システマチックにタスクをこなしてその間に最低限のコミュニケーションを取ればいい。しかしながら、心理的にも物理的にも人と仕事と組織をつなぎ、業務における細かな方向性のズレの修正やアイデアの創出など、生産性向上につながる効果をもたらすためには、タスク以外の「雑談」が必要です。今回のオフィスづくりをする上で念頭に置いたのは効率性の追求ではなく「雑談が自然と生まれるシーンを数多くつくること」でした。また、そこで大切にしたのがオフィス内導線の設計です。
移転に伴い多くの最新オフィスを見学に行きましたが、フリーアドレスを導入すると人の居場所が把握しにくくなるため位置情報システムを導入している会社さまが結構ありました。しかし私たちは、そういう部分に関してはあえてITに頼ろうとは思いませんでした。むしろ、意図的にちょっとした不便をつくり出し、人を探しながらオフィスを歩いた先で偶然知り合いを見つけ、「あいつ今日帰ってきてるんだ、ちょっと話に行ってみるか...」などといった想定外のコミュニケーションが生まれる「アナログな施策」を考えました。
色々な最新オフィスを拝見させていただいて、その会社さまにフィットした良い施策をたくさん知ることができてとても勉強になりました。それを踏まえた上で、良い部分を真似するのではなく「TDCソフトにとって1番良い施策とは何か」ということをメンバーでしっかりと考えることができたことが非常に良かったと思っています。
写真右より:大垣剛氏・弦牧竜也氏・澤仁那氏