1986年に成立した高齢者雇用安定法により、『60歳定年制』が企業の努力義務とされてきた日本ですが、少子高齢化や人生100年時代が言われる中で、65歳までの定年延長が2025年4月から全ての企業の義務になります。そうした中で飛び出した『45歳定年制』には誰もが耳を疑ったに違いありません。定年延長が義務化されようという今、なぜ「短縮論」が出てきたのか。今回はその是非について考えてみたいと思います。
サントリーHD・新浪剛史社長の『45歳定年制』発言が大炎上したことは皆さんの記憶にも新しいことと思います。新浪氏は経済同友会のオンラインセミナーでウィズコロナ時代の社会変革について、「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要」と持論を展開しました。またその日の記者会見でも、「定年を45歳にすれば若手も勉強するようになって自分の人生を真剣に考えるようになる」と意識改革の必要性を強調。加えて年功序列賃金制度についても、「40歳か45歳で打ち止めに」と踏み込んだ発言をしています。
実はこの『45歳定年制』発言は、2012年、政府の国家戦略会議「フロンティア分科会」の報告書の中で、東京大学大学院経済学研究科・柳川範之教授が提言した『40歳定年制』がベースになっています。
その主旨をかいつまんで紹介しますと、「これからは誰もが80歳くらいまで働く時代になる。したがってキャリアプランも40歳くらいで見直す方がいい。長い人生を有意義に生きるためには、自分のキャリアを会社任せにしないこと」といったことが記されています。
確かに高齢化が加速する日本では、サラリーマンの定年が60歳から65歳へ延長が見込まれ、これをさらに70歳(或いは75歳)へと延長してゆこうという流れがあります。その流れの中で、定年まで息切れせず働くためには、40歳という年齢を節目として、「これまでの経験を活かしてセカンドキャリアを築きあげてゆく」という発想は理に適っているようにも思えます。そうしたワークスタイルが定着すれば、100歳まで生きる時代を、社会と関りを持ちながら溌剌と過ごす高齢者が増えるかもしれません。
とはいえ、40代といえば、子どもの教育費や住宅ローンなどライフサイクルの中で最も出費が嵩む時期です。そのタイミングで、「あと30年バリバリの現役でいたいなら一旦ここでリセットを」と言われても、果たしてどれだけの人が前向きに考えられるでしょう。そもそも、ある程度立場が安定してくる40の声を聞いてからリカレントして"新たな自分形成"をおこなうのは並大抵ではありません。ただ、その安定も未来永劫続くとは限りません。だからこそ、自分のキャリアを会社任せにしない働き方が問われるのです。『40歳定年制』を導入する企業が増えているわけではありませんが、意識して働くことは大事です。そうすることで危機意識が芽生え、キャリアを再構築できるスキルの獲得にもつながるのではないでしょうか。
■記事公開日:2021/10/18
▼構成=編集部 ▼監修=清野裕司 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA