労働基準法の改正に伴って、一般企業の時間外労働は、原則として月最大45時間(年間360時間)までと規定され、既に大企業では2019年4月から、中小企業においても2020年4月から適応されています。しかしながら、物流業界におけるトラックドライバーについては、仕事の特性からこれまで時間外労働の上限規制がありませんでした。
ところが2024年4月からは、トラックドライバーも月80時間(年間960時間)の上限ルールが適用されることになります。それに違反した配達事業者は罰則が与えられ、ブラック企業として行政処分が下されることも。このルールに対応すべく、今多くの配達事業者が試行錯誤しています。そこで今回は"物流の大改革"と言われる『2024年問題』が私たちの暮らしや働き方に与えるインパクトについて考えます。
トラックドライバーの働き方改革として、時間外労働の上限が960時間に制限されることにより、ドライバーの労働環境は大きく改善されることになるでしょう。そうした一方で、私たち利用者にとっては、今まで通りの感覚では荷物が届かなくなる(送れなくなる)ことが懸念されています。
最も身近な例が、24時間365日、顧客からの注文を受け、梱包し、即時に出荷するネットショッピングです。今の日本では、ECサイトで購入した商品は、壊れることもなく翌日に届くのは当たり前です。翌日配達や時間指定、無料配送サービスに対して特別な有難味を感じることもありません。ところが来年4月からは、トラックドライバーの数が増えない限りそれらのサービスが利用出来なくなるかも知れません。
ネットショッピングの例えは消費者の不便に過ぎませんが、『2024年問題』は私たちの仕事や働き方にも大きな影響を及ぼす可能性があります。それでなくとも人手不足にあえぐ運送業界で、トラックドライバーの労働時間が制限されるということは、需要に対して供給が完全に追い付かなくなるということです。その結果、仕事の現場では何が起こるか......考えられるシナリオは以下の通りです。
製品を店舗や顧客へ届けるためにトラックによる物流ネットワークに依存している小売業は、商品の供給や在庫管理に問題が生じて入荷の遅延や品切れなどが発生することが考えられます。また食品業では、まず生鮮食品の物流が困難になります。加えて、冷蔵・冷凍食品にもダメージが及び品質の低下や廃棄物の増加などの問題を発生させることにもなり兼ねません。製造業では部品や原材料の調達が遅れて製品の出荷が滞ることに。これにより生産ラインの停止や生産量の減少などが考えられます。
政府の推計では、これらに対して何の対策もしなかった場合、2030年には全国でおよそ34%もの輸送能力が不足して「その分の荷物が運べなくなる」としています。
これまで、配達事業者と荷主企業は公平な立場ではありませんでした。あくまでも、荷主に配達事業者を選ぶ権利があって時間的にもコスト的にも厳しい条件の仕事を無理強いする荷主も少なくなかったようです。ところが『2024年問題』によって"そのパワーバランスが逆転する"と推察する物流の専門家が少なくありません。結果、無理難題を押し付けてくる荷主、そして手間と時間がかかる荷物の配達は、配達事業者から敬遠されるようになることも十分に考えられます。
圧倒的なドライバー不足の中、働き方改革の実現に向けた取り組みをおこない生き残りをかける配達事業者を、荷主は"大切なビジネスパートナー"であると考えてドライバーの負担が少しでも減るよう、変えられるルールはどんどん変えていくべきです。
ネットショッピングのAmazonでは"置き配サービス"に力を入れ、オートロック付マンションでも専用アプリを使ってドライバーが開錠して玄関口に置き配が出来るシステムを導入しました。Yahoo!ショッピングでは"最短お届け日"より遅い配達日を選択するとPayPayポイントがもらえるサービスを今年4月から始めています。『2024年問題』は御社にとっても今から備える経営課題と言えるでしょう。
■記事公開日:2023/06/26
▼構成=編集部 ▼監修=清野裕司 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock