この1年ほど、経済誌などで「データドリブン」という言葉を目にするようになりました。馴染みの浅い言葉ですが、概念としては、事業戦略に必要な意思決定をおこなう場合、これまでの成功体験や長年の勘に頼って判断するのではなく、収集した情報を分析して、そこから導き出された"データ上の正解"を元に舵を切るビジネス手法と解釈できます。今回はこの、『データドリブン営業』について掘り下げます。
データドリブンが注目され始めた背景には、デジタル化社会の進展が大きく関係しています。分かりやすく例えるならば、顧客情報を一元管理するためにCRMシステムを導入しようと考えた場合、これまでなら、複数のシステムベンダーに声をかけてコンペをおこない、要望にマッチしたところに発注するのが一般的な流れでした。しかし今は、ホームページを見ればベンダーの得意分野やソリューション実績、会社の規模と経営状況、さらには利用者の口コミまで、ありとあらゆる情報が一目瞭然。わざわざコンペをおこなう必要もなく、入手したデータを分析して、発注先の目星を付けることができるようになりました。
データドリブンの活用は、会社の基幹システムに係わるようなパートナー選びだけでなく、営業活動においても有効性が論じられています。現在のコロナ禍においては人との接触機会を減らすこともできますし、営業の無駄足を省き、それでいて、利益への最短ルートを導き出すことができるとも考えられています。
例えば、日本には「営業は足で稼ぐ」という観念が今なお強く残っています。しかし、裏を返せばそれは「営業エリアは足を運べる範囲に限られている」と主張しているようなものです。また"飛び込み営業の重点エリア"などを決める場合なども、「そこに見込み客がいるから」という裏付けがあるわけではなく、単に「まだ営業未着手のエリアだから」といった理由がほとんどで、数十件まわって話すら聞いてもらえなかったというのはよくある話です。このように、無駄足が多く商機を逃す事態を招いているのは、営業マンの行動に"データの裏付け"が欠けているから。そこを補強するのがデータドリブン営業なのです。
今後あらゆる業種の営業は「ビッグデータの活用が基本になる」と言われており、データドリブン営業を見据えたマーケティング・ソリューションを提供する事業者が"雨後の筍状態"で産声をあげています。
データドリブン営業は、ビッグデータの分析から導き出されたターゲットに対して、自社製品やサービスの魅力はもとより、それらに関連した有益な情報をSNS、動画広告、ダイレクトメール等の媒体を使い分けて発信。ターゲットからレスポンスがあったものに関してのみ営業行為をおこなうもので、"足で稼ぐ営業"の削減につながります。さらに、成約に結び付いた営業マンのトーク等をデータ化して蓄積することで、"裏付けを持った成功事例"がストックできます。その一方、営業のベテランたちは商談を減らしてまで効率化を図ることに抵抗感が強く「データドリブン営業は定着しにくい」と考えられていました。ところがコロナ禍でビジネス環境が劇的に変化し、ニューノーマルな営業スタイルとして注目されています。
■記事公開日:2021/04/05
▼構成=編集部 ▼監修=清野裕司 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA AdobeStock