働き方改革関連法によって、2020年4月から中小企業を含むほぼ全ての企業に時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。残業時間に上限が設けられたことで、多くの社員は過労働から解放された一方、負担が増して「自分の仕事ができない!」と悲鳴を上げているのが管理職の皆さんです。
会社の就業時間を減らせば、これまで通りに終わらない仕事がでてきます。その結果、残業の対象にならない管理職が代わりに業務をおこなうことになって自分の仕事に専念できなくなっている。こうした状況を改善するために、会社の収益や業績に直結しないノンコア業務を外部に委託する企業が急速に増えています。こうした一部の業務プロセスを外部企業に委託することをBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といいます。そこで今回は、昨今話題のBPOの導入メリット・デメリットについて考えます。
日本の調査会社のレポートによると、2022年度のBPO関連サービスの市場規模は、事業者売上高ベースで前年度比3.0%増の4兆7,020億9,000万円と堅調な伸びを見せており、BPO関連サービスの導入を検討する企業が「右肩上がりに増えている」と報告しています。
この背景にある最大の要因は慢性的な人手不足です。少子高齢化に伴う労働人口の減少によって多くの企業で人材確保が難しくなっています。こうした社会環境と時間外労働の上限規制という"背中合わせの問題"のバランスをとるのがBPOです。
たとえば、リクルーティングや人材教育、経理、財務などといった専門的な知識を持つ受託事業者に業務を一括で任せることができれば、管理職の負担は大幅に軽減するはずです。また、BPO関連サービスを活用することで、自社で新たな人材(ノンコア部門)を確保する必要がなくなり、円滑な業務運営と働き方改革の実現に貢献します。こうしたことからBPO市場は今後もますます成長すると予測されています。
BPOのメリットを最大化するためには、まず、自社の競争優位性を何で確立していくのかというコア・コンピタンス(他社に真似できない核となる事業力)を明確にすることが大前提です。何が競合他社との差別化になるのかを客観的に分析して、社内の限られた経営リソース(人材や時間)をそこに集中できる事業ボトムを確立する。BPO関連サービスの導入はそのお手伝いと考えて良いでしょう。
BPOが上手く機能し始めると、自社の社員では対応が難しい専門的な業務スキルを活用できるため、質が高く正確な業務処理が可能になります。さらには最新テクノロジーや法改制度への対応を迅速化することも期待できます。外部の目が入ることで客観性が生まれ、ビジネスチャンスを逃すことなく、事業成長のさらなる加速も期待できます。また、人件費や設備費などは固定費になりますが、BPO費用は変動費として計上されることも非常に大きなポイントです。つまり、ノンコア部門をBPOで賄うことで固定費率の削減にもつながり財務指標の改善も期待できます。
ただし、BPOにはデメリットも存在します。例えば、BPOは業務プロセスの構築から効果測定などをおこなうため導入時(特にイニシャルコストが嵩みがち)と運用にコストがかかり、事業プロセスの最適化に時間がかかる場合もあります。また、外部委託先企業との情報共有をおこなうことから情報漏洩やセキュリティリスクなどの懸念も否めません。これらに加えて委託していた業務を将来的に内製化する場合、自社運用に戻すことが難しくなる(手間がかかる)などの不安要素も挙げられます。こうした点を考慮してBPOの導入を検討することが重要です。
いずれにしても、右肩上がりの業績アップや景気上昇があまり期待できない現代は、今後ますます自社完結型のビジネスモデルは困難を伴っていくように思われます。BPOサービスを導入して専門知識のある外部事業者からより効率的なやり方を提案してもらいながら業務の最適化を進め、体制を整えていく経営も一考ではないでしょうか。
■記事公開日:2024/02/26
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock