社内コミュニケーションが滞ることへの不安から、在宅勤務を廃止して全従業員の強制出社で賛否の嵐が吹き荒れたホンダ。この、世界に誇れる日本企業は、なぜそこまで極端な働き方に舵を切ったのか。今回は、ホンダがアフターコロナを睨み"ワークスタイルの最適解"として決断した背景に目をやりつつ、在宅と出社のいいとこ取りとも言われている「ハイブリッド型ワークスタイル」について改めて考えてみたいと思います。
実物に触れながら、皆で侃侃諤諤議論するのがホンダ伝統の働き方です。そのホンダがコロナ禍にあって在宅勤務を推奨。出社率は約3割にまで減少しました。閑散とした職場を見た経営陣は危機感を抱き、「独創的なものを生み出すには、やっぱり対面でのやり取りが不可欠」として、全従業員の強制出社を決定したそうです。
これに反発した一部の従業員が「在宅勤務は働く者の権利」と主張。ステークホルダーからも「社会課題として働き方改革が言われ、働きやすさを追求したハイブリッドワークが注目されている昨今、時代に逆行するように出社を強制すれば、優秀な人材を採用できなくなる」と危惧する声が挙がりました。
ホンダの決断は明らかに異質です。しかしながら、人材採用においてホンダが打ち出してきたスローガンは、『働きやすさではなく、働きがいを感じてもらえる制度を整える』というもの。このスローガンには、「働きがいは現場にあって、対面でのコミュニケーションを重視した働き方こそホンダらしさだ」という強固な"哲学"が感じられます。
片や、注目されているハイブリッドワークの魅力は、仕事の内容に合わせて在宅と出社を柔軟に選択できる点にあります。
例えば、「会議がある日は出社して、それ以外は在宅で仕事をする」といったケースなどです。また、人それぞれの都合にも対応できます。育児のために在宅勤務を希望する人もいるでしょうし、自宅では快適に仕事ができないので出社したいという人もいるはずです。その他にも、さまざまな働き方の要望を叶えることで、従業員の満足度や仕事へのモチベーションを高め、企業のメリットにつながることが期待されています。
こうしたことから、同じ自動車業界のトヨタでは、今後、オフィスワーカーだけでなく工場勤務の従業員を含めて、在宅勤務を固定化していく方向性を打ち出しています。つまり、これまで出社勤務が当たり前とされてきた製造業などにも、ハイブリッドワークの波は、確実に波及しつつあるのです。
従業員の働きやすさといった点では、非の打ちどころが見当たらないハイブリッドワークについて、「アフターコロナの働き方の主流になる」と断言する経営管理の専門家が少なくありません。
しかしながら、私たちは本質的な部分で、人間が本当に信頼関係を築くときは"対面のコミュニケーションが欠かせない"と実感しているのではないでしょうか。そして、それを誰よりも強く説いてきたのがホンダ創業者の本田宗一郎氏であり、その意志を継いだ"ホンダイズム"に他なりません。
カーボンニュートラルや自動運転などへの対応を迫られている自動車業界は、「100年に1度の大変革期」を迎えています。こうした中、「解決したい課題があるのなら、時間を忘れてとことん話し合おうじゃないか」というスタンスで勝負するホンダに私はエールを送りたいと思います。と同時に、今回のホンダの決断は、ハイブリッドな働き方が御社の風土や仕事のやり方に相応しいか否かを見極める上での"物差し"にもなるのではないでしょうか。
■記事公開日:2022/07/19
▼構成=編集部 ▼監修=清野裕司 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock