サラリーマン社会は"上司と部下の関係性"で成り立っています。しかし、上司との反りが合わなかったり価値観が違うこともあって、それを我慢しながら働くのも部下の務め。帳が下りたビジネス街の居酒屋からは「親と上司は選べないからな...」といったぼやき声が聞こえてきます。
ところが最近、その関係性に変化の兆しが見え始めています。その1つが、人事権を従業員に委ねて、相応しいと思われる上司を投票で決める『管理職の選挙制』です。ここ数年は、成長著しい新進気鋭の企業がこの制度を導入しており、いずれも「成長のエンジンになっている」と口を揃えます。将来的には、「上司は部下が選ぶ」というワークスタイルが一般化するのか...今回は『管理職の選挙制』について考えます。
東京・渋谷でセールスプロモーションやイベント企画を手がける株式会社グッドウェーブ。こちらの会社では、管理職のポストに空きができた際、年功序列や人事考課、上司の推薦などによる"穴埋め人事"ではなく、希望者が立候補して"公約"を掲げ、部門のスタッフたちの投票によって管理職の人選がおこなわれています。その結果、女性管理職の比率が28%と高く(2021年に厚労省が調査した企業平均は12%)、仕事をしながら子育てをしやすい制度が整備されたり、正社員と非正規社員の年収格差も改善されているといいます。
管理職を選挙で決める人事制度は、メガネブランド『OWNDAYS』を世界9か国で展開する株式会社オンデーズや、日本最多の店舗数を誇る『Dr.ストレッチ』を運営する株式会社フュービックといった、急成長を遂げている注目企業も取り入れており、従業員の意識と組織改革の原動力となっています。他人の判断によって据えられた上司ではなく、自分が選んだ上司だからあらゆる面で納得性が高く、管理職の方もチャレンジングになっていく。自ずと攻めの組織体質へと改善されていく好循環が生まれているそうです。
管理職の選挙制を導入する企業に共通しているのは、上司と部下のミスマッチを防ぎ職場の人間関係を良好に保つこと。従業員(上司と部下の双方)のモチベーションを上げ、業績に結び付けることが最大の目的になっています。それを実現させるためには、「意欲と覚悟がある人が管理職になってリーダーシップを発揮するべき」というのがこの制度を導入している各企業に共通した考え方です。
ところが、今なお多くの日本企業は「勤続年数が増えれば能力も上がっていく」という前提で人事制度が設計されているため、本来は、その人の意欲や能力を評価しなければならないはずなのに、「30代の後半になったからそろそろ課長に」といった年功序列制で管理職が決められています。その結果、思うように仕事を回せなくなると、途端に「本当は管理職にはなりたくなかったんだよな」などと無責任な発言を平気でする輩も中にはいる。管理職の選挙制は、こうした不適格上司の輩出リスクの抑止力にもなっているそうです。
とはいえ、一般的には部下が上司との相性をあれこれ言うのは"単なる我がまま"と思われがちです。たとえ穴埋め人事であったとしても、会社の改革を促すような公約を掲げていなくても、立派にその職責を果たしている(果たそうとしている)管理職の方が大半だからです。しかし、あえてその我がままを容認して、会社を飛躍させようという試みの1つが管理職の選挙制なのです。
さらに言えば、この選挙制度が成功すれば、従来型のワークスタイルをドラスティックに変えることになるでしょう。経営陣が奔走して汗をかくのではなく、従業員一人ひとりがモチベーションを上げて知恵を絞り、「自分たちの力で乗り切ろう」とか「もっと上を目指そう」という当事者意識が芽生えてくれば、会社の成長はどんどん加速して行くことは間違いありません。
さて、皆さんの会社はどうでしょう。「ぜひこの人を管理職に推したい」という同僚が周りにいますか?或いは、部下の清き1票を獲得できる自信があなたにあるでしょうか?
■記事公開日:2023/04/10
▼構成=編集部 ▼監修=清野裕司 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock