私たちの生活にすっかり定着したキャッシュレス決済。経済産業省の調べによれば、2022年のキャッシュレス決済比率は36.0%、決済額はなんと100兆円を超えています。さまざまなサービスが展開され、あらゆるシーンで決済方法がキャッシュレスに移行しつつある中、企業には未だに"現金を手渡しする"業務があります。それが "小口現金"です。
小口現金とは、経費をその場で精算できるよう、会社の金庫に置いておく現金のこと。出張で事前に現金が必要になった場合の仮払いや、日々発生する備品の購入費・交通費など社員が立て替えた費用を精算する経費として使用しますが、その運用効率の悪さから小口現金の精算をキャッシュレス化する企業が増えています。そこで今回は、経費精算のキャッシュレス化のメリットや運用の留意点について考えます。
経費精算のキャッシュレス化が普及し始めた背景には法律の改正があります。『電子帳簿保存法』の改正によって、キャッシュレス決済を利用した際、利用明細のデジタルデータを"日付・金額・取引先"などから検索できる形式で保存しておけば、領収書の原本管理が不要になりました。これにより、経費精算の手間(経理部門の仕事)が大幅に軽減されるようになったのです。
ただしそれは、パソコン内に"利用明細専用フォルダ"をつくって保存すれば良いというものではなく、経費精算の申請や承認、さらにはその後の仕訳から会計ソフトへのデータ連携もおこなうことが出来る『経費精算システム』の導入が必要です。それでもなお、経費精算のキャッシュレス化が進んでいるのは、小口現金の精算業務が想像以上に経理部門の負担となっているからです。
緊急事態宣言発出当時、多くの企業がテレワーク導入を急ぐ中、小口現金で経費精算をおこなっていた企業は約75%(2020年度)。つまり、ほとんどの企業で経理部門だけは出社して業務にあたるという不公平な状況でした。こうした状況を改善する取り組みが、経費精算のキャッシュレス化を後押ししました。
経費精算を全てキャッシュレスにすれば、経理部門は小口現金を持つ必要がなくなります。結果、金庫の現金を数えたり、両替のために銀行へ行ったりといった日々の"現金管理業務"が不要になります。さらに、あらゆる"ヒューマンエラー"を軽減出来ることも大きなメリットです。
例えば、会社が発行した法人クレジットカードで従業員が支払い出来るようになれば、現金の受け渡し自体がなくなるため申請金額の記入ミスや清算金の間違いなどが発生しません。また、利用明細のデータを経費計算ソフトに取り込むことで入力や計算ミスを減らせます。このように、これまで発生しがちだったヒューマンエラーを大幅に軽減できるため、経理部門の業務の効率化にもつながります。
さらに大きく変わるのが、属人的だった経理業務が可視化されることです。これによって経営陣が問題点を把握しやすくなり、仕事の進め方の改善に繋げることも可能です。また経理の属人化は、担当者の急な不在(病気・退職)によって機能がストップしたり混乱するリスクがありました。キャッシュレス化はこうしたリスクの抑止策にもなります。
経費精算のキャッシュレス化を運用するにはいくつかの留意点があります。一般的な法人クレジットカードを用いてキャッシュレス化をおこなう場合は、カードの紛失や盗難などへの備えが欠かせません。法人カードには不正利用への補償が付いていますが、従業員にカードの取扱いに関する注意喚起をおこなうことは大前提です。
さらに、従業員の不正利用にも目を配らなくてはなりません。法人カードで仕事に関係がない私物を購入したり、プライベートな飲食に使用したり。この点については経理部門の担当者が利用明細をこまめにチェックする必要があります。
いずれにしても、まずは社内における運用ルールの周知徹底が肝心。そのためには、いきなり全ての経費精算をキャッシュレス化するのではなく、金額の上限を決めてテスト期間を設けたり、対象者を限定してスモールスタートするのも良いでしょう。運用規模が小さければ、トラブルにも対処しやすく改善しながら対象範囲を拡大出来ます。現在小口精算に負担を感じているご担当者は、ぜひ一度ご検討ください。
■記事公開日:2023/08/28
▼構成=編集部 ▼監修=清野裕司 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock