「勤務間インターバル」という勤務制度をご存じでしょうか?これは、1日の業務終了時間から翌日の業務開始時間までの間に「一定の休息時間」を設けて、社員が休息時間や生活時間を十分に確保出来るよう国が企業に呼びかけているワークスタイルです。「仕事が終われば休むのは当たり前」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、その「当たり前」が適切に実行されていないのが今のビジネスシーンです。たとえば、9時から18時(休憩1時間)までが勤務時間の社員なら、業務終了の18時から翌日の9時までの15時間がインターバル(休息時間)となります。ところが、この社員が5時間の残業をおこなって23時に退社した場合は、翌日の始業時間である9時までに10時間しかインターバルがありません。残業手当が支払われたとしても、こうした状況が頻繁にあると健康に悪影響を与え心身の健康を損なう可能性が高まります。そのリスクを回避して、ワークライフバランスの向上を実現させるのが勤務間インターバル制度です。
高度経済成長の時代より、海外からは「残業大国」などと揶揄されてきた日本(及び日本企業)ですが、度を越した残業の慣習化が本格的に問題視されるようになったのは、2014年に大手広告代理店で長時間労働によるメンタルリスクが原因で新入社員が過労自殺したことがきっかけです。ここから急速に「働き方を真剣に見直そう」という風潮が大企業を中心に広まりました。そして2019年の「働き方改革法案」の施行と同時に、勤務間インターバル制度の導入が「企業の努力義務」として求められるようになりました。
ところが、実際にはこの制度を導入しようという企業は極めて少なく、2021年に厚労省が公にした「就労条件総合調査」によれば、導入率はわずか4.6%。「普及する見込みはない」というのが実情でした。しかしこの1年で勤務間インターバル制度を導入する企業が増えているのです。その理由は「コロナ禍におけるワークスタイルの変化」で、在宅勤務を主とした「テレワークの普及」がきっかけと言われています。
テレワークの一般化は、「出社せずとも仕事が出来ることが分かった」という気づきを得た一方で、「仕事とプライベートの境が曖昧になった」と感じる人を多く生みました。特に情報サービス系の分野(システムエンジニアやプログラマー、Webデザイナー等)では、業務の開始と終了時刻を自分で決めている(或いは明確に決めていない)ケースが多く、1日15時間、16時間労働の技術者は珍しくありません。その結果、生活が不規則になって健康被害を招き、退職や転職を余儀なくされる人が非常に多い業種です。そのような状況を抑止する(或いは歯止めをかける)ために勤務間インターバル制度を導入する会社が増えているのです。そして今後は業種を問わず、仕事とプライベートに明確な線引きをして「健康経営」をおこなっていくことがCSR(企業の社会的責任)や信頼性を高めていく大事な要素になると考えられます。
では、どのくらいの休息時間を設ければいいのか。これは、睡眠時間や生活時間、通勤時間等を考慮して検討する必要があるため一括りには考えられませんが、厚労省は1日11時間以上を推奨しています。
社員が高いモチベーションで自分の能力を発揮するには、健康状態やプライベートとのバランスが取れていることが条件になります。したがって、仕事のために睡眠時間や趣味の時間、或いは交流機会等を削っていると、いつしか仕事自体がストレッサーになってしまいます。できるだけストレスを感じることなく仕事に取り組むためには、エンジョイ出来るプライベートタイムが欠かせません。
残業することが当たり前になっている会社では、本来の勤務時間内で仕事が終わらなくてもまるで気にすることなく自分のペースで仕事に取り組む人がいたり、会議の時間は「延長して当たり前」といった雰囲気が漂っているものです。そんな悪しき風潮は会社側が「制度」をもって変える努力をすべきです。その1つの選択肢としてあるのが勤務間インターバル制度です。
ちなみに、厚労省の勤労統計調査では一般労働者(事業所規模5人以上)の残業時間の平均は月14.2時間となっています。これを基準とするならば、御社の勤務間インターバルは許容範囲と言えるでしょうか?
■記事公開日:2024/06/25
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock