2016年に厚生労働省は『働き方の未来2035』という提言を公開しています。この報告書では、少子高齢化や技術革新が進む中で、20年後の2035年に社会や働き方、それを支える技術などがどのように進化発展しているかを考察し、そのような社会を生き抜くためには「ワークスタイル変革」への取り組みが必要であることを強く指摘しています。
ワークスタイル変革は、社会のトレンドや従業員のニーズなどに対応して「新たな働き方」へ向かうためのスローガンで、当然ながら取り組むべき課題は時々の情勢によって変化します。現状の課題は「団塊世代の現役引退に伴う労働力不足」です。この課題をクリアして、強い企業力を保ち続けるためにはどのような変革が必要なのか。実際の事例を紹介しながら、これからのワークスタイルを考えたいと思います。
日本が高度経済成長を遂げた1970年代は人口構成比率において労働現役世代が最も多く、東京圏の乗車率はピーク時に300%を超える勢いだったそうです。早く・安く・大量に作ることで市場のニーズが満たされ、家庭を顧みず働く「モーレツ社員」が長時間労働をいとわず、休日返上で働くことが美徳とされた時代です。
ところが今は、高齢者の比率が高まり労働現役世代の数は年々縮小。少ない人数でも高い生産性を維持し続けられるよう、社員一人ひとりに高いパフォーマンスの発揮が求められるようになっています。そうした状況に輪をかけて、2019年から始まった「時間外労働の上限規制」が足枷となり、残業がしにくい環境になっている。「できるだけ少ない人手と短い時間で、どれだけ高い成果を出せるか」といった二律背反の問題に向き合うために、企業ではさまざまな「ワークスタイル変革」が進めています。
レストランの予約サイトを運営する株式会社ぐるなびでは、会議をおこなう時は屋外を散歩しながら話し合う「ウォーキングミーティング」を取り入れています。並んで歩きながら話をすることで、メンバーが同じ目線になることができ、適度な息抜きにもなるのだとか。また何より、いつもと違う環境に身を置くことで新しいアイディアが生まれやすくなっているそうです。
大手IT企業のヤフー株式会社では、社員のリフレッシュを狙い、土曜日が祝日の場合はその前日の金曜日を休日にして3連休がつくれる「土曜日祝日振替休日制度」が実施されています。このほか、オフィスが入居するビル内(全20フロア)であればどのフロアでも働くことができる大胆なフリーアドレス制を導入して、自由度の高い働き方を実践しています。
乳製品を製造・販売する小岩井乳業株式会社では、全営業担当者にiPadを支給して、どこでもメールチェックや販促資料の取り寄せ、販売実績の確認などがおこなえるよう効率化を図りました。また、オフィスに戻らずともiPad上で日報の記入や確認などがおこなえるため「取引先から直帰できる機会が増えて時間を有効利用できる」と環境改善を評価する声が上がっているそうです。
人手不足だからこそ個人にしわ寄せが行っても仕方がない。こういった発想の企業は、これから先の時代はビジネスを継続していくことは困難になるでしょう。小人数でも成果が出せるよう、また、人生の分岐点となるライフイベントとキャリアを両立できるようワークスタイル変革を無視することはできないのです。
先に紹介した「ウォーキングミーティング」や「土曜日祝日振替休日制度」などはレアケースとして、一般的にワークスタイル変革に欠かせないのはICTツールの充実です。例えばリモートワークを導入する場合は、Web会議を過不足なくおこなえる場所(集中ブース等)をオフィス内に設けることは必須です。
また、これまで紙やエクセルで運用していた情報を、クラウド型オンラインツール(Googleスプレッドシート等)へ切り替えることで、複数のユーザーが同時閲覧・修正が可能になり、書類の出し戻しなどの手間を省くこともできます。このように、適切なICTツールを用いれば少人数かつ短時間でも生産性を高める効率化はおこなえます。 いかがでしょう、今の御社のワークスタイルに変革の必要はありませんか?
■記事公開日:2024/08/30
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA