日本能率協会マネジメントセンターが、コロナ禍でテレワークを経験した20代から50代までのビジネスパーソンにおこなった調査では、約95%の人が「コミュニケーションの重要性を感じている」と回答しています。ところが、コロナがやや下火になってオフィスに人が戻ってきても「コミュニケーションが活性化しない」という声を非常に多く耳にします。その理由は何なのか? 原因の1つは、どうやらオフィスの動線とデスクの配置にあるようです。
一般的な会社のオフィス動線は、執務スペースの効率的な利用と、部署ごとの仕事を能率良く進めることを重視した"障害や迂回が少ない直線的な動線"がオーソドックス。デスクレイアウトも『対向型』を採用する会社がほとんどです。
このタイプのレイアウトは、部署内での小さなコミュニケーションは取りやすいものの、人が行き来する通路や他部署に背中を向けることになるため、情報交換やコミュニケーションが取りにくく、エンゲージメントを高めることが難しいデスクレイアウトと考えられます。
現在公開中の『オフィス探訪』"公文教育研究会首都圏リージョン丸の内オフィス"は、2018年に都内に点在していた5つの事務局を丸の内オフィスに集約しました。その際、最大の課題になったのは、「見知らぬ相手(5つの事務局の社員同士)のコミュニケーションを促進すること」だったと言います。その課題を解決したのが、オフィスのフリーアドレス化と、あえて不規則な動線を設けて、それに順じてデスクの配置をする『クロス型レイアウト』でした。
総務部の担当リーダー曰く、「執務エリアを抜けるためにはジグザグに歩かなければなりません。スマートなレイアウトではありませんが、あえてこうした通路にすることで、エリア内の動線が固定化することを防ぎました。この背景には、社員同士の偶発的な接点が増えれば、コミュニケーションも活性化するだろうという仮説であったわけですが、結果的にはそこから新たな気づきが生まれ、《社員が成長していくためのワークスペース》というコンセプトに合った空間が実現しました」と、手応えを感じていらっしゃいました。
公文教育研究会の"拠点集約"といった事例のみならず、昨今は業務内容の多角化によって複数の部署や人が協力し合い、知恵を出し合い仕事を進めることが増えています。こうしたことから、社員同士が接点を持ちやすく横断的な連携がしやすい、ジグザグ動線の『クロス型デスクレイアウト』や、オフィス内を自由に行き来しやすい『回遊型デスクレイアウト』を採用する会社が今後は増えていくと思われます。
もとより、快適なオフィスを構築するためには、「通路幅が900mm以上で、動線はよりスムーズに」が基本になると言われますが、それはもはや、ひと時代前の条件かも知れません。一見ごちゃごちゃしているようなデスクレイアウトであっても、自然発生的に他部署の人と関わる機会が持てて、コミュニケーションを生む動線を設けることが、これからの"良いオフィス"の条件になるのではないでしょうか。
■記事公開日:2023/05/24
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=田尻光久・Adobe Stock