フリーアドレスは1987年に清水建設技術研究所が初めて実践した日本発祥のワークスタイルです。そのきっかけは、当時の日本のオフィスは技術職にとって1人あたりのワークスペースが狭く、それを補うために、ほぼオフィスで過ごすことのない営業職のデスクを有効活用して技術職の労働環境を整えようという施策でした。
時を経て現在、働き方改革やコロナ禍によるハイブリッドワークの普及により、多くの企業で「多様なワークスタイルを受け入れよう」という兆しが見られ、オフィスをフリーアドレス化する企業が増えています。これにより、生産性の向上や業務の効率化などのメリットを享受している企業がある一方、思うような成果を得られずフリーアドレスを廃止する企業もあるようです。そこで今回は、フリーアドレスのメリット・デメリットを考えてみました。フリーアドレス導入の検討材料にしていただければと思います。
これまでは社員一人ひとりが自分のデスクを持ち、出社した社員は自分のデスクで仕事をするのが当たり前でした。この"自分のデスクで仕事をする"という概念を無くして、社員がそれぞれに好きな席やエリアで仕事をするワークスタイルがフリーアドレスです。
固定席の場合は、必然的に席が近い社員同士でのコミュニケーションが主になりますが、毎日さまざまな席やエリアを渡り歩いて仕事をするようになれば、自ずと部署が違う社員と接する機会が多くなります。
つまりこれまでは、物理的かつ精神的な距離があって、ちょっとした意見交換をするにしてもわざわざ時間を割いてもらったり、場合によっては会議室を予約して向き合っていた人たちと気軽に接点を持つことができます。社内コミュニケーションの活性化がフリーアドレスを導入する一番大きなメリットと言えるでしょう。
同じ会社でも、部署や立場が違えば物事の判断基準や価値観は異なります。そういった社員同士が気軽に意見交換を出来る環境は、思わぬ発見があったり意外な盲点に気づけるなど、仕事へのプラスが多々あるはずです。
ただし、フリーアドレスのようなオープンコラボレーション型の働き方は周囲の社員の集中を阻害してしまう場合があります。したがって、フリーアドレスの導入を検討する場合は、一人で集中できるスペースを設けることもセットで考え、働き方を選択できるような対策が必要になります。
その日の気分や仕事内容に合わせて席やエリアを自由に選び、社内コミュニケーションを活性化出来るところがフリーアドレスの魅力ですが、自由であるがゆえのデメリットもあります。たとえば、固定席の縛りがなくなったことで気の合う顔ぶれだけで集まり、その一帯が事実上の固定席になってしまったり、逆に、固定席に慣れたベテラン社員の中にはフリーアドレスに馴染めず、毎日同じ場所で孤立感を滲ませながら仕事をしているようなケースも少なくありません。
さらに、フリーアドレスは毎日席が替わるため、コンタクトしたい相手(同じ部署の上司・部下・同僚)を探す手間がかかります。他部署とのコミュニケーションが活性化する半面、部署内のコミュニケーションが取りづらくなる面もあるでしょう。
役割分担が明確になっていて、すでにチームワークが確立された部署なら対面頻度は問題になりませんが、新プロジェクトの立ち上げ直後や新しいスタッフが入った時など、まだ十分に関係性が構築されていない状態でフリーアドレスを続けていると、仕事が滞ったり組織への帰属意識や、モチベーションの低下を招く原因になり兼ねません。
他社の事例を真似てカタチだけを導入したフリーアドレスは形骸化しやすく上手く機能しません。フリーアドレスを成功させるためには、その会社なりの運用ルールを整備して全社で共有、定期的な見直しも必要です。加えて、ビジネスチャットなどのコミュニケーションツールを活用して、常に部署内のコミュニケーションが取れるようマネジメントすることも大切です。
■記事公開日:2023/08/28
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=田尻光久